『真実』ネタバレあらすじ&感想!クスッと笑える是枝監督のコメディー映画

『真実』個人的評価★4.0点(5点満点)

是枝監督の最新作『真実』を見てきました!

万引き家族』でパルムドームを受賞。さらに、今作はヴェネチア国際映画祭のオープニング作品として公開され、名実ともに世界的監督となった是枝さん。

 

世界からも期待されている是枝監督の最新作『真実』をネタバレ有で、あらすじや感想をまとめていきます。

『真実』あらすじ

www.youtube.com

 

フランスの国民的大女優ファビエンヌが自伝本「真実」を出版し、それを祝うためという理由で、アメリカに暮らす脚本家の娘リュミールが、夫でテレビ俳優のハンクや娘のシャルロットを連れて母のもとを訪れる。

早速、母の自伝を読んだリュミールだったが、そこにはありもしないエピソードが書かれており、憤慨した彼女は母を問いただすが、ファビエンヌは意に介さない。

しかし、その自伝をきっかけに、母と娘の間に隠されていた愛憎渦巻く真実が次第に明らかになっていく。

映画.comより一部引用https://eiga.com/movie/89504/

 

『真実』監督・キャスト

■監督…是枝裕和

万引き家族』で世界的に注目をあびた是枝監督。『真実』の情報が解禁になった時「次はフランスで制作!?しかも出演者めちゃくちゃ豪華じゃん!」と公開前からワクワクしていました。

 

■出演者

ファビエンヌ・ダジュヴィル…カトリーヌ・ドヌーヴ

リュミール…ジュリエット・ビノシュ

ハンク・クーパー…イーサン・ホーク

アンナ・ルロワ…リュディヴィーヌ・サニエ

シャルロット…クレモンティーヌグルニエ

 

とんどもなく豪華なメンツが揃っています。

元々はジュリエット・ヴィノシュと是枝監督が「今度一緒に作りましょう」と話していて、それがようやく実現したのが今作だそう。

 

イーサン・ホークは是枝監督から『万引き家族』がカンヌ受賞後に声をかけられたそうで、彼は「このタイミングなら断れないよね(笑)」とこの役を受けたそうです。

是枝監督が世界でも認められている証拠ですね!

 

とにかくキャスト陣の演技は全員素晴らしかったです!

子役演技も本当に良かった!国は違えど、さすが是枝監督…!と感動しました。そもそもあの子役が上手なんでしょうけど(笑)。

『真実』ネタバレあらすじ

フランス・パリに住む大女優のファビエンヌが自伝「真実」を出版することに。

出版を祝うためファビエンヌの家にNYから、娘で脚本家のリュミエールと、夫で俳優のハンク、そして7歳の娘シャルロットが訪れます。


しかし、リュミエールが出版前に原稿を確認すると言っていたにも関わらず、ファビエンヌはそれを無視して出版。リュミエールは母であるファビエンヌに怒ります。

パリに到着後リュミエールが本を確認すると、そこにはタイトル「真実」とは違い、嘘ばかり書かれていました

 

女優として忙しい毎日を送っていたファビエンヌは家庭を大事にはしておらず、リュミエールの世話は使用人やファビエンヌの夫がしていました。

にも関わらず「真実」には、娘の世話をする日々が忘れられないという記述があり、リュミエール「これのどこが真実なの?」と怒ります。

しかし、ファビエンヌは娘の怒りに対して「事実なんて退屈だわ」とどこ吹く風。

 

何よりリュミエールを怒らせたのは、ファビエンヌの姉妹であり同じく女優として活躍していたサラに一切触れていないことでした。

サラは演技力もあり、ファビエンヌと共にトップ女優として活躍していたものの、若くして亡くなっています。

リュミエールは幼いころからサラに遊んでもらうことが多かったため、彼女の存在を隠す自分の母親に苛立ちを隠せませんでした。

 

また、ファビエンヌの秘書リュックも、自伝に一切出ておらず「否定された」と感じ、秘書の仕事を辞めてしまいます。

大女優としてプライドが高く、やや高慢な態度が目立つファビエンヌに周囲も辟易としていたのです。

 

そして、ある日の夕飯。ファビエンヌリュミエールが口論になり、そこでサラの死の事実が発覚。

なんとファビエンヌは元々サラが抜擢されていた映画を、映画監督と寝て主役の座を略奪。さらにその役で映画賞を受賞しています。その後サラは海に入り、帰らぬ人となっていたのです。

 

そして、ファビエンヌは新作映画の撮影をしていました。共演するのは「サラの再来」と呼ばれている若手女優。

映画はSFもので、不治の病のため地球にはいられない母親が、7年ごとに娘と会うという物語。ファビエンヌは年老いた娘役を演じます。

ファビエンヌが出演するには規模が小さい作品ですが、リュック曰くサラの再来と呼ばれている女優と共演するために引き受けたそう。

 

ファビエンヌはサラに似ているマノンを目の前にしたこと、そして自分の老いを痛感し、撮影もうまくいきません。

挙句の果てにはファビエンヌは自身のシーンの撮影にも関わらず、逃げ出そうとしますしかし、撮影に立ち会ったリュミエールに止められ、なおかつ叱咤されたことで撮影に戻ります。

 

撮影は無事終了し、マノンにサラが着ていたワンピースをあげるファビエンヌ

「サラの再来と言われているのが重荷だった」というマノンに対して、やさしく声をかけ、最後は温かな雰囲気に。

 

そして、脚本家リュミエールの言葉をもとに、ファビエンヌはリュックに謝罪をします。その後、ファビエンヌはある事実をリュミエールに話し、二人の今までの確執もとけていきます。

 

リュックも無事戻り、ファビエンヌ一家もギスギスとした雰囲気がなくなり、家族は再び一つになるのでした。

『真実』のネタバレ感想

ユーモラスで爽やか!

とっても軽やかでおしゃれなフレンチ映画に仕上がっていました。

万引き家族』のようなじめっとした雰囲気はなく、とってもコミカルで最後はじわんりと心が温まる作品。

普通に「ははは~」と声出して笑っているも結構いましたし。

 

その中にも是枝イズムというと、是枝監督ならではのちょっとした「毒」みたいなのが散りばめられてて、なんだか不思議な作品でした。本場フランスの方は、この作品をどう見るのか気になる…!

冒頭から、かなりブラックユーモアにあふれていて、ファビエンヌの「あの女優って生きてるの?あれ?葬式行ったわよね?あー人違いね。そっちは生きてるのね」とむちゃくちゃ失礼なセリフから始まります(笑)。

 

娘に「何が真実よ!嘘ばっかりじゃない!」とブチ切れられても終始ファビエンヌ「えーそうだっけ?」とすっとんきょんな感じも面白い。

カトリーヌ・ドヌーブの演技力なのか、どうにも憎めない役柄に仕上がっていますし。

 

予告の段階では、キレた娘が「みんなに本当のことを暴露してやる!」みたいなサスペンス的な展開になるのかと思いきや、娘も「お母さんだし、仕方ないわね」みたいなスタンスで進むので「え?軽くない!?」と驚いちゃいましたw

 

どちらかといえば、わがままお母さんに手を焼く娘とその周囲って感じの物語で、なんともユーモアたっぷりの作品でした。

母と娘、どちらに感情移入できるかも作品を楽しむポイントだと思います。私は圧倒的に娘の方でした(笑)

母と娘の「確執」と「許し」

とはいえ、リュミエールも過去に女優をめざし挫折した過去もあるようで、ファビエンヌに対して嫉妬憎悪が心の中で渦巻いていて。

物語が進むと、そのことがどんどん表面化していくのが見どころです。

 

旦那さんに「幸せな家庭を、お母さんに見せつけたかっただけだろ」と言われて、口をつぐむリュミエールの表情が印象的でした。

要はファビエンヌが手に入れられなかったもの、つまり「家庭」という存在を見せつけて「私の方が幸せですけど」とマウントとろうとしてたんですね。

 

ですが、大女優として自由気ままに振舞うファビエンヌを冷やかかな目で見つつも、なんだかんだ尊敬だったり愛情があるのも事実。

自分には無いものを持っている人って「ないわ~」と軽蔑しつつも、時に羨ましく思えたりしますよね。

女優っていうのは、そのくらい強い魅力が無いと務まらない仕事なんでしょうね。

 

そして、長年振り回され苦しんだ娘が、最後は母親の弱さを見て、手助けしてあげるという展開もなんだかリアル。

リュミエール的にも、年老いた母親が気弱になっていく姿を見て「母もこんな風になるんだなぁ」とちょっと嬉しかったんじゃないですかね。

 

絶対的だと思っていた母は案外脆いし、どうしもない人だなと気が付けて(笑)。

年齢を重ねたからこそ理解できたり、許せたりすることもありますよね。家族なら余計に。

その辺の家族ならではの機微が描かれていて、さすが是枝監督だな~と思いました。

「女はみんな女優」

なんだかんだラストはハッピーエンドです。とはいえ、いろいろと思い返してみると「ん?」という違和感を残すのも是枝監督の憎いところ。

 

物語のラスト、ファビエンヌリュミエールに対して、サラに嫉妬していたこと、そしてリュミエールの為に映画の役を引き受けたと話します。

 

その事実を知ったリュミエールは、泣きながらファビエンヌと抱き合います。ようやく二人が仲直りか…とジーンとするシーンです。

そして、今度はリュミエールの娘シャルロットが、ファビエンヌ「私もおばあちゃんみたいな女優になりたい」と語り、ファビエンヌはその言葉に喜び、シャルロットをやさしく抱きしめます。

 

「ええ話やな」とホロリとなっていると、シャルロットを待つリュミエール「ちゃんと言えた?」と問いかけます。

「どういうこと?」と思っていると、シャルロットは「言えたよ」と答えつつ「これって真実?」リュミエールに聞ききます。

 

つまりこれは…シャルロットの言葉はリュミエールの台本で、言わせてだけということでしょうか。

わだかまりが無くなったと思いつつも、リュミエールはやっぱりどこかファビエンヌ一泡ふかせたい的な恨みがあったのかなと(笑)。

あるいは、単純にファビエンヌを喜ばすだけだったのか…。私はわりと前者が理由なのかなと思っているんですが、ここはどう読み取ったか意見が別れそうですね!

 

そう考えると、実はファビエンヌの言葉さえ嘘なのではないかと考察してみたり。

ファビエンヌは女優ですから、本音なのか、演技なのか、その境目は非常に曖昧です。

むしろ、彼女自身も分かってないでしょう。

 

彼女の言葉がどこまで本当か、その真相はまさに闇の中。誰も分かりません。

なので、リュミエールも娘をつかって演技をさせ、真実か嘘かを曖昧にさせたのかなと。

 

まさに「女はみんな女優である」を体現したストーリーですね。俳優であるはずの夫にこの役を頼まないところも、何とも策略家やな~と思わせる。

そもそも、ファビエンヌのキャラクターもカトリーヌ・ドヌーブそのものって感じなので、彼女が演技をしているのか、それとも素でやっているのか何だかよく分からなくなりました(笑)。

 

この役をフランスの大女優に抜擢させるって、是枝監督すげーなと思いましたよ。

中には「え?それ大丈夫なの?」とヒヤヒヤとするセリフもありましたし。

 

「家族とは」「女とは」という深いテーマを、軽やかに描き切った作品でした。

是枝監督作品に、新しい風が舞い込んだような、それでいて是枝監督らしいような。そんな魅力が詰まった、美しい映画です。

やっぱり是枝作品好きだなーとしみじみ思いました!是非ご覧ください!

 

『天才作家の妻-40年目の真実-』ネタバレあらすじ&感想!思ったよりも笑える老夫婦の愛の物語

『天才作家の妻-40年目の真実-』個人的評価★4.1(5点満点)

『天才作家の妻-40年目の真実-』見ました!予告では「なんか小難しい作品なのかなー」と思っていましたが、思った以上に笑えて最後は心温まるような作品でした!

ネタバレあらすじや感想をまとめていきます。

『天才作家の妻-40年目の真実-』あらすじ

アメリカの作家ジョゼフはノーベル文学賞を授与が決まり、妻と息子とともにストックホルムへ向かう。

しかし、そこに突然記者ナサニエルが現れ、妻のジョーンはジョゼフのある疑惑を持ちかけられる。それは、ジョセフは本当に小説を書いているのはジョゼフではなく、ジョーンなのではないかという衝撃的な話だった。

授賞式を目前にしながら、おしどり夫婦として知られるジョゼフとジョーンの間に徐々に亀裂が生まれ始め…。

『天才作家の妻-40年目の真実-』の監督・キャスト

■監督…ビョルン・ルンゲ

今作で初めて監督の作品を見ました。珍しい名前だなと思ったらスウェーデンの方なんですね。

 

■キャスト
ジョーン・キャッスルマン…グレン・クローズ

ジョゼフ・キャッスルマン…ジョナサン・プライス

ナサニエル・ボーン…クリスチャン・スレーター

デヴィッド・キャッスルマン…マックス・アイアンズ

 

演技派女優グレン・クローズが主演を務めています。ショートヘアがすごく似合っていて、とにかく美しい!品のあるマダムって感じ。

『天才作家の妻-40年目の真実-』ネタバレと感想

ネタバレあらすじ

物語はアメリカの作家ジョゼフがノーベル文学賞を受賞し、妻のジョーンと息子デヴィッドとともにストックホルムに向かうところから始まります。

しかし、記者ナサニエルがジョゼフの経歴に疑いを持ち、本当はあなたが執筆しているのでは?とジョーンに問いただす。

 

実はその疑惑は正解で、ジョーンは類まれない文学の才能がありながらも、学生時代ある女性作家から「女性の作家なんて売れない」と言われたことで作家になる夢を諦めていたのです。当時は男性優位な世の中だったので、女性がどんなに才能があろうと認められない時代でした。

 

そもそも、ジョーンとジョセフは大学時代の教授と生徒という関係で、しかもジョゼフは妻子持ち。自身の才能を見出してれくれたジョゼフに惹かれ、ジェーンは略奪婚!しているのです。

作家の道を諦めていたジョーンですが、ある日勤務先(出版社?)の上司が「良いユダヤ人作家を探している」の一言にひらめき、ジョゼフの原案をもとにジェーンが小説を完成させ、上司に提出します。

 

作品はジョゼフの名前で出版され、その名は文学界でどんどん知られていくようになります。その後も、アイディアを思いつくのはジョゼフ、それを書いていくのはジョーンという関係で作品を作りあげていきます。


しかし、夫がノーベル賞を受賞し称賛される中「妻は書かない」と皆の前で言われ、あげくのはてにはジョゼフが随分と年下のカメラマンを口説いたことを知り、ジョーンはついに堪忍の緒が切れて「離婚する!」と大騒動に。

 

しかし、ジョーンとジョゼフが言い争っている最中に、突然ジョゼフが心臓発作を起こし帰らぬ人となってしまいます。

 

ラストは帰りの飛行機が映し出されます。ジョーンは「奥さん、ずっと陰にいるつもりですか?」とそそのかしていた記者ナサニエルに対し「あなたの言っていたことは事実ではありません。夫の名誉を傷つけるのは許しません」とピシャリ。

同行していた息子には「帰ったら全部話すわ」と話し、物語は幕を閉じます。

思ったよりも笑える作品

浮気癖があるどうしようもない男と、そんな男を好きになってしまった才女の凸凹夫婦が何とも面白い。ところどころ「www」と吹いてしまった。

今流行りの「女性を抑圧するな!」的なテーマではなく、ある夫婦の愛の物語でした。

いびつさはあるものの、こういう愛の形だってアリだよねと思えるラブストーリーです。

 

アカデミー賞受賞か!?と言われていたグレン・クローズの演技は言わずもがな素晴らしいです。女性の内なる怒りや憎しみ、そして愛情という非常に複雑な感情を見事に表現していました。

後、個人的には夫役のジョナサン・プライスダメ男っぷりが最高によかった!(笑)。昔はブイブイ言わせてた色男が、ただの変態おやじに成り下がっているさまが最高w

 

年下の美女カメラマンを口説く手法が、若き妻を口説いたときと全く一緒なのも最高にクソ男過ぎて笑える。書き間違えた名前を、舐めた指で修正しているのもキモくて、惨めで大好き。

 

逆上する妻に対してノーベル賞のバッチを「こんなの捨ててやるよ!」と車から捨て、あとで運転手に見つけてもらうシーンも笑ってしまった。

クソ男過ぎるけど、確かになんか憎めない。そういう絶妙なバランスを見事演じきっていました。

男が惨めであればあるほど、グレンの凛とした美しさが際立って、本当に良いコンビだなと思いました。

 

夫婦って一筋縄ではないんだなーと思える、そういう熟成した雰囲気がとても素敵でした。

2人が「ふざけんな!」とケンカしている最中に、長女からの出産報告の電話があって「こんな幸せな瞬間ないよなぁ」とお互いで泣きながら抱き合うシーンが最高に好き。

さっきまで二人でブチ切れあってたのに、コロッと夫婦に戻るところが何だか愛しい。夫婦ってこんな感じなのかな(笑)。

愛は一人では埋まらない

個人的には、この2人の関係性はなんだなんだ良いなと思っちゃいましたけどね。

2人は正反対の性格だからこそ足りない部分を補えていたし、自分にはない部分を惹かれあってたんじゃないかな。

 

何よりジョーンにしてみれば女性の才能を認めない男性が多い時代で、ジョセフは自分の才能を見出し、ずーと信じてくれたかけがえのない存在だったのでしょう。

ジョゼフはジョーンが小説に集中できるよう子育や家事をして、彼女の才能をずっと支えてくれていましたし。2人でせっせと小説を書いている時間は、なんだかんだお互い幸せだったんじゃないですかね。

 

ただ、時代の流れと共に「軋み」が生まれ、心がすれ違ってしまったんでしょうけど。

ぶっちゃけ、あそこで彼が亡くなるのは唐突ですし、亡くなったから彼女は再び彼を愛せたのではとも見える。

あれで離婚してたらジョーンは彼のことなんて忘れて自由にのびのびと生きてたでしょうし(笑)。

 

彼の面影を背負って生きる結果になったのかもしれないけど…でも2人で協力しながら作品を書いていた過去は消せないし、そのとき感じた愛情も無くなるわけではないんだろうな。

お互い、必要不可欠な存在だったということなんでしょうね。色んな意味でね。

 

女性からしたら「こんなの男性側が都合の良い女性を描いているだけじゃん!こんな時代遅れな女性、今時いるか!」と思うかもしれません。

 

でも、時代に限らず、こういう女性がいてもいいんじゃないのと思えました。

キャプテンマーベルのように強い女性ばっかりだったら、うまいこと世の中まわらんでしょ(笑)。

 

鑑賞前はもっとジメジメとした暗い作品かと思いましたが、思ったよりも笑えるシーンも多くて、個人的には好みの作品でした。

何より2人の夫婦の演技が本当にステキ。夫婦ってきっと色々あるし、だからこそ楽しいのかも。そんなことを考えさせられた映画でした!

『バイス』ネタバレあらすじ・感想!笑って考える社会派ブラックコメディー

バイス』個人的評価★3.7点(5点満点)

バイス』がようやくレンタル解禁したので鑑賞しました。

丁度『記者たち』と同じ時期に公開されていたのですが、どちらを見るか悩んで『記者たち』を選んだんですよねー。どちらもイラク戦争の真実を描き出す映画です。

 

バイス』はイラク戦争の首謀者とも言われているディック・チェイニーを主人公の半生を描きつつ、なぜイラク戦争は起きたのか?という真相に迫る社会派コメディー。そんな『バイス』のあらすじやネタバレ感想をまとめていきます。

バイス』のあらすじ

www.youtube.com

1960年代半ば、酒癖の悪い青年だったチェイニーは、後に妻となる恋人リンに叱責されたことをきっかけに政界の道へと進み、型破りな下院議員ドナルド・ラムズフェルドの下で政治の裏表を学んでいく。

やがて権力の虜になり、頭角を現すチェイニーは、大統領首席補佐官、国務長官を歴任し、ジョージ・W・ブッシュ政権で副大統領の座に就くが……。
映画.comより一部引用(https://eiga.com/movie/90070/

バイス』の監督・キャスト

■監督…アダム・マッケイ

『マネーショート華麗なる大逆転』の監督やスタッフが再集結した今作。

アカデミー賞では8部門にノミネートされ、脚本や役者の演技が高く評価されました。ちなみに、アカデミー賞ではメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞。

 

■キャスト

ディック・チェイニークリスチャン・ベール

リン・チェイニー…エイミー・アダムス

ドナルド・ラムズフェルドスティーヴ・カレル

ジョージ・W・ブッシュサム・ロックウェル

 

主要キャストはほぼアカデミー賞にノミネート。

特にクリスチャン・ベールは今作の出演にあたり、体重を約18kg増量したことも話題になりました。

後からディック・チェイニーの写真を見たら、とってもソックリでビックリしました。元の顔は似ていないのに…!役作りとメイク技術の凄まじさに茫然…。

 

個人的には妻役を演じ、助演女優賞にもノミネートされたエイミー・アダムスも好きです!

魔法にかけられて』『メッセージ』など、どんな演技もこなす美人さん。

 

今作は「リンが妻ならどんな男でも政治家になれる」と言われたほど有能な女性を演じきっています。力強い演説シーンが素晴らしい!

バイス』ネタバレあらすじ

後にアメリカ副大統領となり、「史上最悪の副大統領」とも評されたディック・チェイニーの半生を描いていく映画。

物語は1960年代から始まる。当時、酒浸りだったチェイニーは大学を退学になり、仕事もまともに出来ずにいた。

しかし、成績優秀の恋人リン(後の妻)に叱咤され、大学に再入学し連邦議会インターンとして働くことに。

 

そこで、ドナルド・ラムズフェルドに出会い、政治の世界でその才能を発揮。

34歳という異例の若さで大統領首席補佐官にもなり順風満帆と思いきや、後の選挙で敗退。

リンの力を借りて、下院議員選挙で当選を果たしますが長女が同性愛者であることが発覚し、政界からは去ることを決めます。共和党は同性愛には反対なので、長女に被害が及ぶのを避けたのです。

 

その後、チェイニーは石油会社ハリバートンのCEOに就任。家族と共にのんびりと過ごしていたところ、ブッシュ元大統領の息子ジョージ・W・ブッシュから大統領選に出馬するので、副大統領にならないかと打診されます。

 

ブッシュには政治的能力が無いと気づいていたチェイニーは、それを逆手にとり外交や軍事など、あらゆる権力を自分のものにしようと画策。

そして、ブッシュが大統領になると、ラムズフェルドを国防長官に迎え、さらには法解釈により自身の副大統領権限を拡大。もはや大統領よりも強い権力を手にしていきます。

 

そして、9.11テロが起きるとチェイニーは国民への情報操作や他の議員も操りつつイラクには大量破壊兵器がある」という不確かな情報をもとにイラクと戦争を開始。

 

しかし、戦争が進むにつれ「本当にイラクが関与しているのか?そもそも兵器があるのか?」と国民の不信感も強まりチェイニーも批判の対象に。

ラムズフェルドを解任し、チェイニーのバッシングが強まるなか、心臓発作を起こし危険な状態となりますが、ある一人の男性の心臓を移植したことで九死に一生を得ます。

 

その後も政治家として活動しているチェイニーですが、イラク戦争の発端をつくったのではないかという批判に対して「あなたたちが愛する人を守るためにやった。私が謝ることなど無い」と語りかけます。

バイス』感想

痛快な社会派コメディー

バイス』ではチェイニーがいかにアメリカを操っていたのか、そしてイラク戦争はなぜ起きたのかに迫ります。

 

そもそもチェイニーが何故イラク戦争を仕掛けた理由は、イラクの石油権を得るためだと言われています。石油会社ハリバートン社のCEOだったこともあり、チェイニーは同社の大株主でした。

またイラク戦争時、ハリバートン社はアメリカ軍支援事業の契約を結び、戦争中に事業を急速に拡大。結果としてハリバートン社は31億ドルもの契約高を打ち出しています。大株主であるチェイニーも随分と儲けたでしょう。

 

みなさんもご存知の通りイラク大量破壊兵器はありませんでした。

そもそも兵器がないのに、戦争を仕掛けているので戦争が長期化。最終的には多くのアメリカ兵が命を落とし、イラクとの関係も悪化と最悪の結末で終わりました。

 

要は、この映画ではイラク戦争はチェイニーの私欲ために生まれたんじゃないの?と描きつつ、こんなアメリカにしたのは「ワイスピ楽しみ」とか能天気に話している貴方なのでは?と問いかけるのです。(ワイスピのくだりは映画のラストを見てご確認を!痛いとこ突いてくるなぁというラストでした)

私たちは笑ってるだけでいいのか?

こう書くと「うーん、なんか政治要素が強くて難しそう」と思うかもしれませんが、この映画はあくまでコメディです。

時にはプププと笑いながら見れますし、何ならアメリカの政治事情に詳しくなくても楽しんで鑑賞できます。

 

チェイニーが政界を去り「その後は家族とともに幸せに暮らしていますとさ。めでたしめでたし」といった具合で、急にエンドロールが始める部分とか「!?」となっちゃいました。え!?まだまだ時間残ってますけど!?と思ったら、そこから物語が進みだすから面白い。

政治ものって小難しくて見る気しないな~って人も、この映画なら飽きずに見れると思います。ギャグもありますし、ところどころ分かりやすく解説してくれるので。

 

とはいえ、アハハと笑いながらも「ん?これ笑ってる場合なのか?」と急に怖くなったり。

 

アメリカの人たちはこれをどう見るのでしょう。

トランプ大統領もあらゆるバッシングがなされていますが、それでもそんな大統領を選んだのは国民です。

 

そして、それは日本も同じ。今年の夏の選挙は若者の投票率が著しく低かったを報じられています。

www.excite.co.jp


そのことは何を意味するのか。

映画のラスト、2人の若い女性の会話にこそ、その真意が詰まっています。

今なお続く目の前の問題に目を背けているだけでいいのか。そんなことを考えさせられる映画です。

語り手カートの考察

この物語はずーと男性の語り部カートがいて、チェイニーについて説明してくれます。

カート妻と息子と幸せそうに暮らしている普通の男性で、「この男性は誰なの?」と正体不明のまま話が進みます。

 

そして、物語の終盤。チェイニーの説明をしていた男性が急に車で轢かれ、帰らぬ人になってしまいます。

「え?何?え?」と困惑していると、なんと彼の心臓が倒れたチェイニーのもとに移植。

 

チェイニーは見事復活し「私はイラク戦争に対して謝ることなんか何もないね」とテレビ番組で語るのです。

一方、語り部のカートは「少しくらい感謝の気持ちがあってもいいよね」と皮肉たっぷりに批判。

 

これは何を意味しているかというと、心臓移植にせよイラク戦争にせよ、犠牲になったのは彼自身ではなく赤の他人であるということでしょう。

 

チェイニーが莫大の富を手に入れるために、数えきれないほどのアメリカ人と現地のイラク人が苦しんだのは紛れもない事実です。

ましてや、アメリカを守るといった大義名分を掲げておきながら、結果としてアメリカはボロボロになって戦争を終えた。

政治家が勝手に始めた戦争を、国民が尻拭いする。これはいつの時代も変わらないのかもしれません。

 

バイス』を合わせて『記者たち』という映画を見ると、イラク戦争についてより分かりやすくなるかと思います。

 

『記者たち』は「何故イラクなんだ?おかしいぞ?」と疑問に思った新聞記者たちが、その秘密を暴こうと奮闘する物語です。

 

戦争で犠牲になるのは『バイス』に出てくるような政治家ではなく、アメリカを守ろうとした国民たちです。

その国民たちにアメリカ政府を何をしたのかを『記者たち』から知ってほしい。

感想をまとめていますので、是非こちらもご参考に!

 

www.motchan3102.com

 

個人的には国民視点に寄り添った『記者たち』のほうが好みでした。とはいえ、どちらも見てよかったと思える作品です。

日本人はどうしても政治的なテーマを扱った作品をどこか避けがちですが、でも今こそ日本でもこういう作品が作られるべきではないでしょうか。

 

今年の夏には日本で『新聞記者』が公開され「干されるの覚悟で制作した」と制作陣が言っていましたが、この映画にはアカデミー賞にノミネート歴のある有名俳優が数多く出演しています。

本当に伝えたいテーマを作ることが出来る。それは恋愛や病気ものだけでなく、社会的なもっと奥深いテーマであっても。そういう映画が日本にも増えてほしい、そう願います。

『ビリーブ未来への大逆転』あらすじ・感想!「女性だから」にモヤモヤする女性必見の映画です!

『ビリーブ未来への大逆転』評価★3.8(5点満点)

『ビリーブ未来への大逆転』を見ました!アメリカでは大人気のルース・ベイダー・ギンズバーグの伝記映画ですが、同じ女性として勇気をもらえる内容でした!

 

そんな『ビリーブ未来への大逆転』のあらすじや感想をまとめていきます!

『ビリーブ未来への大逆転』あらすじ

www.youtube.com

アメリカ合衆国最高裁判事ルース・ベイダー・ギンズバーグの実話をもとにした伝記映画。多数の性差別問題の裁判に挑み、米国内ではリベラル層に絶大な人気を誇る彼女の、学生時代から弁護士としてキャリアを開花させた過去を描いていく。

 

コロンビア大学を首席で卒業したルースだが、「女性だから」という理由でニューヨークの法律事務所に就職できず、大学の教員の仕事を始める。

弁護士としてのキャリアを諦めかけていた彼女だが、ある日夫のマーティンから渡された、モリッツという男性の所得控除が却下されたという案件に興味を持つ。

 

モリッツは独身で一人で母の世話しており、母の介護の所得控除を求めたのだが法律で認められているのは「女性、妻と死別した男性、離婚した男性、妻が障害を抱えている男性、妻が入院している男性」だと言う。

ルースはこれは法律における性差別なのではと考え、モリッツを説得し訴訟を起こす。法廷経験のない彼女はマーティンの協力を得ながら裁判に挑むが…?

『ビリーブ未来への大逆転』のキャスト

監督…ミミ・レダ

 

キャスト

ルース・ベイダー・ギンズバーグフェリシティ・ジョーンズ

マーティン・D・ギンズバーグアーミー・ハマー

メル・ウルフ…ジャスティン・セロー

ドロシー・ケニヨン…キャシー・ベイツ

 

主演のフェリシティ・ジョーンズは『博士と彼女のセオリー』で数々の賞レースにノミネートされていましたね。背がちっこくて可愛いですね!

 

アーミー・ハマーは最近ノリにのっている俳優さんですね!たくましい肉体も素敵ですが、この人声がセクシーだよね。バリトンボイスが心地よい…。

『ビリーブ未来への大逆転』の感想

「女だから」にイラッとしたことがある人は必見

アメリカの最高裁判事ルース・ベイダー・ギンズバーグ、通称RBG

日本だと馴染みの無い人物ですが、実はアメリカでは絶大な人気を誇る女性なのです。

なんとティーンからもアツい支持があり、マグカップやTシャツなど彼女のグッズは飛ぶように売れているのだとか。

www.gqjapan.jp

 

何故、86歳のおばぁちゃんで最高裁判事アメリカで人気を得ているのか。この映画はそんな彼女の秘密をひもとく伝記映画です。

アメリカでは映画公開時にチケットがほとんど売り切れ状態だったそう。

ちなみに2019年の春には、彼女のドキュメンタリー映画も公開されていて、こちらも高く評価されています。私はこちらのドキュメンタリー映画を先に見ていました。

www.motchan3102.com


ルースが何故ここまでに絶大な人気を誇るのか。

それは彼女がリベラルな思考を持ち、性差別の問題に大いに貢献したというのが大きな理由の一つです。

 

ルース自身、学生時代から性差別に苦しみ、その経験があるからこそ弱者に寄り添える

まさに彼女はアメリカ国内では、女性ヒーローなのです。実際にアメコミヒーローをコラージュした画像もあるんですよ(笑)。

 

ルースは大学時代誰よりも優秀な成績をおさめていたものの「女だから」という理由で、どの法律事務所からも相手にされずにいました。

ルースが働き始めた1970年代、女性は残業もできないし、自分名義でクレジットカードも作れない…など性差別がまだまだ残っていたのです。

 

ルースは自分の夢を諦めて、弁護士ではなく教授として大学に就職。

しかし、その後ある裁判をきっかけに、歴史が変わるような人権に関する裁判をいくつも担当していきます。

映画はそのきっかけとなった裁判をメインに、彼女の大学から就職までの苦労や最愛のパートナーマーティンとの愛について描かれています。

 

作中では、ぞっとするような男性からの性差別のオンパレードの中で、彼女はどうやって弁護士としての地位を確立したのか。

その苦しい過程は同じ女性として見ていて苦しくもなりますが、最後は勇気づけられる内容となっていました。

 

「女なんだからさ」的な発言でイラッとしたことがある人は、この映画を是非見えほしいです。見終わった後は、スーと爽快になるはず。

 

そして、彼女が訴え続けている「人権」について考えさせられるでしょう。

「女だから」「男だから」ではない。

人間として平等に持っている権利とは何か。そんなことを考えたくなる映画です。

ドキュメンタリー映画とセットで見ると◎

出来ればドキュメンタリー映画とセットで見た方がいいと思います。特に日本人は彼女のことあまり知らないと思うので…。

 

映画は結構ストーリーがサクサク進むので、バックグランドがちょっと分かりにくいかもしれません。特に学生時代の苦労とか。

 

あと、特にマーティンとの出会いや二人の愛については、今作は少しあっさりめ。このご夫婦、本当にすばらしい関係でそこも彼女が愛されている所以の一つなんですよ。

 

映画では描かれていませんがマーティンはこの後、彼女が弁護士として活躍していくのを支えるために、自分は弁護士を辞めて家庭のサポートするんです。

マーティン自身も税関系の弁護士としてはNYでトップレベルだったそうですが、それでも「彼女のやっていることは、とても重要なことだから」と彼女に代わって、子どもの世話や家事を担当したのだとか。

 

映画内でも描かれてはいますが、マーティンはこの時代の男性としては珍しい考えの持ち主で、ルースの才能を誰よりも信じていた人物なんです。

彼がいたからこそ、ルースは活躍できたし、ルース自身もそう明言しています。

ドキュメンタリーだと、より深くルースとマーティンの関係を知れるので、是非合わせて見ていただきたいです。

裁判って難しいんだな(バカの感想)

裁判をメインにした映画ってけっこうありますけど、この映画は裁判ってこんなことしたり、こんな風に進むのか~と驚く場面も多々ありました。

例えば、裁判のロープレ的をする場面は、弁護士さんでもこんなことするのか!と驚きでした。新人とか経験の少ない弁護士さんはこういうことをしてるんですかね?

 

あと、裁判って言葉と言葉のやり合いなので、物凄く不確かで曖昧な戦いなんだな~と。

そんな意図はなくても「それってこういう意味?」とか「それだと○○ってことだよね」返されて、モゴモゴしちゃうとアウトなんでしょうね。

 

言葉の一つ一つに細心の注意を払って、頭をズーとフル回転して。改めて弁護士さんって凄い仕事だと思い知らせられました。

 

リーガル・ハイのように論破!論破!論破!ってだけの世界ではないんですね…(笑)。

 実際に裁判を生で見たことないけど、こんな感じの緊張感が漂っているのかなと思わせるシーンでした。すごく見ごたえある。

そもそも、これほどまでに彼女に注目が集まっているのは、他でもないトランプ政権の影響です。

 

アメリカでは最高裁の持つ権力は非常に大きいそうで、判事が誰になるのかは、国の将来がかかっているとも言えるほどだそう。

しかしトランプ政権により最高裁に保守派の判事が増え、移民、同性婚、人工中絶などの人権問題が再び大きく揺れ動いているのです。

 

そんな混沌としたアメリカ社会の中で、ルースは一筋の希望でもあるのでしょう。アメリカ人が憧れる、ルースの生きざまを是非ご覧くださいませ。

『ジョーカー』あらすじ・ネタバレ感想!この映画を否定する恐怖を忘れずにいたい

『ジョーカー』評価★3.8(5点満点)

f:id:anan5040:20191007212001j:plain

話題作『ジョーカー』早速見てきました!ヴェネチア国際映画祭で、アメコミ原作の映画として初めて最高賞を獲得したことも記憶に新しいでしょう。

そんな『ジョーカー』ですが、前評判通り色んな意味でとんでもない映画でした。

衝撃度でいえば、2019年度のトップです。

『ジョーカー』のあらすじやネタバレ含みで感想をまとめていこうと思います。

『ジョーカー』あらすじ

www.youtube.com

 

DCコミック「バットマン」シリーズのヴィランとして絶大な人気を誇るジョーカーの誕生譚。悪のカリスマと名高い彼は、何故ジョーカーとなったのか。

 

舞台は財政難に苦しみ荒れ果てたゴッサムシティ。「人々を笑顔にさせること」が何よりの生きがいである大道芸人のアーサー・フレックは、いつかスタンダップコメディアンになることを夢見つつ、母ペニーの介護をする日々を送っている。

 

アーサーは脳に欠損があり、突然笑い出してしまうという病気を抱えていた。そしてその病気のせいで人に虐げられ、人間関係も仕事もうまくいかなくなる。

やがてアーサーは仕事でトラブルを起こしクビになり、さらに市の財政難により持病の福祉を打ち切られ、貧困も病状もさらに悪化。

 

そして、母が度々口にするトーマス・ウェインとの関係について調べていくうちに、衝撃の事実を発見する。何もかも失ったアーサーの心は徐々に狂気をおびていく…。

 

------------------

ジョーカーはDCコミックのキャラクターですが、この映画は完璧オリジナルストーリーです。何かの映画と繋がっている訳でもなく、何ならバットマンは出てこないし、ヒーローさえ出てきません。なので、この映画だけ見ても問題ありません。


ただし、前知識としてトーマス・ウェインは誰かくらいは知っておくといいです。

トーマス・ウェインは、バットマンの父親です。息子であるブルース・ウェイン(のちのバットマン)は、まだ幼い少年の姿で登場します。

 

トーマス・ウェインは超金持ちのやり手社長で、今作では市議会議員になり、財政改革として社会保障をカットする政策を打ち出します。これがアーサーを苦しめる要因となるわけです。

この2人の関係性を知っておくと、ラストのトーマス・ウェインの場面が何を意味するのか、じっくり考えたくなります。

『ジョーカー』監督・キャスト

監督トッド・フィリップス

ハングオーバー』の監督というと、ピンとくる人も多そうですね。全く毛色の違う作品ですが…どんな化学変化が起きたらこんな作品作り出せるんだろ(笑)

 

キャスト
アーサー・フレック (ジョーカー)… ホアキン・フェニックス

マレー・フランクリン… ロバート・デ・ニーロ

ソフィー・デュモンド… ザジー・ビーツ

ペニー・フレック…フランセス・コンロイ

 

ジョーカーと言えば、今まで名だたる名優が演じてきた悪役ですが、今回抜擢されたのは演技派ホアンキン。

オファーを受けているのにわざわざオーディションに参加し、この役の為にアバラ骨が浮き出るほど減量しています。それだけこの役にかける思いが強い証拠ですね。

 

アーサーが憧れるコメディアンとして、ロバート・デ・ニーロまで出演。豪華な顔ぶれがそろった映画です。

あとソフィー役の人、「デットプール2」のドミノ役の人ですね!全然違う役なので気が付きませんでした!アーサーに嫌悪と恐怖に満ちた目を向けるシーンがとても良かったですね。

『ジョーカー』ネタバレ感想

善悪を根本から揺るがす、とんでもない映画

まず、R15なのも納得の映画でした。子どもは絶対見せちゃダメ。アメリカでは厳重警戒で上映しているようです。それだけ危険な映画と認定されています。

www.gizmodo.jp

 

今作は『アクアマン』や『ジャスティス・リーグ』といったDCユニバースとはまったく無関係だし、アクションシーンも正義のヒーローもいない。ただただ暗いし、一切救いのない鬱展開です。

 

ざっくりとネタバレしちゃいますと、アーサーが闇に堕ちていくきっかけになった出来事は3つあります。

 

まず一つ目が仕事をクビにされたこと、

2つ目が自身の病気の社会保障が打ち切られたこと、

最後はずっと看病していた母親が、自分の病気の原因をつくったと判明したことです。

 

実はアーサーの母親は精神障害で入院していた過去があったのです。

そして彼女の夫が幼いアーサーを虐待し、その時の怪我が原因でアーサーは脳に障害を負うようになったという事実を知ります。

しかも、トーマス・ウェインは実の父ではなく養子

「トーマス・ウェインさんは私たちを救ってくれる。だって、あなたはトーマスさんの実子なの。私がトーマスさんのところで働いていたときに、愛人として結ばれたのよ」というのは、全て母親の妄想だったのです。

 

彼はこの病気のせいで、周りからも気味悪がられ仕事もまともに出来ないのに、その原因がまさか母親の恋人にあったとは…。なんつー鬱展開だよ……。

この秘密が解明するシーンは、見ている私自身もまともに呼吸が出来ないほど絶望的な場面でした。

しかし、ある一面から見れば彼女も被害者の一人ですよね。社会のセーフティーネットがしっかりあれば、彼女もアーサーを守れたかもしれないし。

 

そして、とうとう地下鉄で証券マンにボコボコニされて発砲してしまったことで、アーサーは悪の道へと踏み入れていきます。

 

アーサーがここまで堕ちたのは貧困だけでなく、誰にも愛されていないという孤独も要因です。もし、せめて愛情が少しでも残っていれば、彼はジョーカーになることは無かったかもしれない。ソフィーとの逢い引きが本当だったら、彼は何とか生きていたのかな。


あとは、職場の人たちが少しはアーサーを気に掛けるとか(飲みに行くとかさ)、あのバスの母親が笑ってあげるとか、福祉施設の人がもう少し献身的になるとか…。

 

でも、こういう「if」を色々探すけど、本当に必要だったのは社会的な保護でしょう。

今の日本だって同じで、誰かを助けてあげられるほど余裕のある人が少ないのだ。私も含めて、正直自分のことで精いっぱいだ。

 

社会保障もどんどん縮小し、ましてや消費税もあがり、生活はどんどん苦しくなる。

そして、この苦しみは今後より激しさを増していくのを国民はみんな分かっている。明るい将来など来ないと分かりながら毎日を過ごしている。地獄かよ。

 

 

そんな中で人にやさしくすることが出来るのだろうか。

明日の自分さえ分からないのに、誰かに手を差し伸べられるのだろうか。

 

お国のお偉いさんからすれば「生活は苦しいけど、みんなで助け合って頑張ってね!私たちは知らんけど!」で済む話なのかもしれない。

 

でも、これは国民が頑張ってどうこうなる問題ではないですよ。国でセーフティーを作らないと、どんどん堕ちていくし、誰かを蹴落としてでも生きていくしかない。『蜘蛛の糸』みたいに。

金もなければ愛もない、失うものもない。

そういう人が日本でもどんどん増えていくのではないでしょうか。

その人々の上で笑うのは、汚い手を使ってでも利益を貪り尽くす富裕層。

そう遠くない未来に、こういう日本が訪れるのかな。むしろ来ているのかな。

ジョーカーは誰でもなりうる

この映画を見て「いや~凄い映画だったわ」みたいな感想で留まるならいいですよ。

私も「とんでもねぇ映画見ちまったな」と、ジョーカーの狂気に呆然とするだけ。それは多分「私はジョーカーにはなれない」という思いがあるからだと思います。

 

私は両親にも愛されていると思うし、将来を共にしたいと思える人もいる。

少ないですが友人もいるし、安月給だが一応働いていて、そこまで不自由がない。

傍から見れば”それなり”かもしれないが、私にとっては手に余るほど幸せを感じている。

 

でも、何か一つでも狂ったら…?と考えるとゾッとする時がある。

もしかしたら私だって虐待をする両親のもとで生まれたかもしれない。愛する人からDVを受けたかもしれない。私はたまたま”普通の幸せ”をどうにか手に入れただけなのだ。

この普通の幸せを掴めない人もいるし、私だっていつの間にか転落するかもしれない。なにがきっかけになるかは分からないが、私だってジョーカーになるかもしれない。


実は、私の身内には生まれつき病気を抱えている者がいます。治る見込みもないし、これ以上改善することもない病気です。今は障害者年金をもらっていますが、これが打ち切られたら私たち家族は相当苦しくなります。

でも、今後もし打ち切られたら…?と思うとゾッとするし、アーサーのように貧困に苦しむ状態になるかもしれません。

そしたら私も彼のように…そう思うと心臓がバクバクして、苦しくなります。

 

老老介護や介護離職なども問題となっていますが、こういう小さなはずみで人は簡単に絶望へと堕ちていくのです。(下の記事は是非ご参考に読んでみてください。日本でも貧困は起きています。)

toyokeizai.net

 

誰だってジョーカーになりうる種を持ち合わせているはずです。

その種に気づいていないのか、はたまた気づかないフリをしているだけ。

誰もがジョーカーになりうる。そういう時代が、どの国でも来ているでしょうか。

この映画を肯定することはできない

全てにおいて圧倒的だし、素晴らしい、とんでもない映画だとは思うんです。

でも、私はどうしてもこの映画を絶賛する気になれない…。

 

きっと今作は歴史に名を残す映画になるでしょう。

でも、やっぱりアーサーの行動を認められない自分が確かにいるんです。彼の行いをやっぱり肯定できないのです。

 

それは勿論、私が平和なぬるま湯の世界でぬくぬくと生きているからなのでしょう。

しかし、そんな私でも上記でも書いたように、何かのはずみでジョーカーになりうる危険性はいくらでもあります。

 

だから怖いし、否定したくなる。私は”まだ”ジョーカーではない、と。

 

もちろん映画製作スタッフも「この映画は暴力を誘発するものでもないし、ましてやジョーカーを称賛してもいない」と明言しています。

rollingstonejapan.com


果たして彼らの物語をどう見るのかは、観客一人一人にゆだねられています。

私は平和ボケと言われてもいいので、この映画を否定し、ジョーカーを恐れる心を持っていたいです。

 

正直、感想をまとめてはみたものの、私はこの映画を見て何を考えたらいいのか、何をすべきなのかも未だに分からない。

ただただいつか来るジョーカーの恐怖を抱えながら、毎日をどうにか生きるしかないのかな。

 

これだけ鑑賞後に困惑してしまう映画は今年初です。

自分の中の善悪がグチャグチャに引っ掻き回されて、すこぶる気分が悪い。

2019年、新しいジョーカーが生まれるべくして生まれた、そう言える作品となったのではないでしょうか。

『バジュランギおじさんと小さな迷子』あらすじ・感想!一番大事なのは国でも宗教でもない!「愛」だ!

『バジュランギおじさんと小さな迷子』評価★4.4(5点満点)

『バジュランギおじさんと小さな迷子』見ました!

前評価は高く気になっていたのですが…最初に言うと2019年のトップ5には入るであろう映画でした!!!!

そんな最高の映画『バジュランギおじさんと小さな迷子』のあらすじ・感想をまとめていきます!

『バジュランギおじさんと小さな迷子』のあらすじ

www.youtube.com

 

パキスタンののどかな村に住む少女シャヒーダーは、生まれつき言葉が発することが出来ず、村の長の勧めでインドのデリーで参拝に行くことに。

兵役経験のある父はビザの取得ができないため、母一人で行き参拝しに行くことに。

しかし、その参拝の帰り道、ある出来事がきっかけでシャヒーダーはインドに取り残されてしまう。

シャヒーダーは貨物列車に乗りインドの街に着くが、そこで宗教心の強いインド人青年パワンと出会う。声の出せない彼女から居場所を聞き出すことも出来ず、結局警察にも追い出され、家に連れて帰ることに。

 

しかし、ある日シャヒーダーがパキスタンから来た少女だと知ることになる。ポキスタンに少女を帰そうとするパワンだが、インドとパキスタンでは緊張状態が続いており、ビザの発行も停止してしまう。

パワンは危険を承知で、パキスタンに少女を届けるための旅に出るのだが…?

 

インド映画と言えば昨年大ヒットした「バーフバリ」や、

インド映画の代表格とも言える「きっとうまくいく」など、

日本でも地位を確立したジャンルですよね。予告では、今作がこの2つに続く新しいインド映画!的なノリで紹介されています。

『バジュランギおじさんと小さな迷子』の監督・キャスト

■監督

カビール・カーン

wikiを見て初めて知りましたが、今作は本国インドでは2015年に公開しているようです。インド映画が流行っている背景もあり、日本で公開が決まった感じですかね。

 

■キャスト

パワン(バジュランギ)…サルマン・カーン

シャヒーダー(ムン二)…ハルシャーリー・マルホートラ

ラスィカー…カリーナ・カプール

チャンド・ナワーブ…ナワーズッディーン・シッディーキー

 

キャスト一人一人の演技が輝いていて、もう本当泣かせられた…!!

特にシャヒーダー役の子役は5000人のオーディションから選ばれたのも納得の演技力。あの無垢な瞳と笑顔にがとにかく泣ける…。

インド映画は役者陣もみんなみなぎる様な活力があふれ出ていて見ているだけでも楽しい!

『バジュランギおじさんと小さな迷子』の感想

宗教も国も関係ない。大事なのは「愛」だ!!!

宗教心が強い主人公パワン(バジュランギはあだ名みたいなもの)と、声が出せない少女シャヒーダー(パワンには”ムンニ”と呼ばれています)のロードムービー映画です

 

とにかくね!女の子が本当にかわいい!!!!

声が出せない難しい役どころなんですが、あのクリっクリの澄んだ目と小さな体で見事に演じきってました。そりゃこんな可愛い子、置いて行くこと出来ないわなと納得してしまう愛らしさ…。この子を見つけ出してきた人、本当GJ。

 

シャヒーダーは声も出せないし読み書きも出来ないので、どこから来たのか全く分からない状態。

しかし、少女がパキスタンが勝利した際にダンスをしたことで彼女の出身が判明します。マジか!と驚く、主人公ですが「お前を助けると神に誓った」という理由で少女を母親のもとに返すためにパキスタンへ。

で、道中では「インドのスパイだ!」と捕まったり、警察から逃げたりとドタバタ珍道中…的な展開になります。

 

その道中で出合うパキスタンの人たちが主人公の行動や言葉により、どんどん心を改めていく過程が描かれます。まるで主人公が神様の如く人々の凝り固まった心を、多大なる愛情で溶かしていくのです。

 

ちなみに、インドとパキスタンは長くにわたり争いが続いている国です。さらっとWiki見ておくと、映画の内容もより分かりやすくなりますよ。

印パ戦争 - Wikipedia

 

彼は神様に誓ったからというだけでシャヒーダーを助けますが、本当に突き動かしているものは何か。

それは名誉でも金でもない。少女を助けたいという「愛」なのです。

 

陳腐なテーマにも思えますが、未だに緊張状態が続くインドとパキスタンにとって、このテーマは深く刺さるものなのではないでしょうか。

劇中で主人公と少女を追うパキスタンの記者が、両国の国民に対してこう問いかけます。

「子どもたちには憎しみではなく愛を伝えましょう」

この言葉を受けて、国民たちがラストにある行動を起こす…というのが物語の結末になります。その結末はぜひご自身でご確認ください。

 

この先の未来を担う子供たちに何を残し、そして何を残さないのか。

 

どんな国の人でも、どんな宗教の人でも、あるいは年齢や性別に限らず、ついつい忘れてしまいがちな人間として一番大事なことを教えてくれる映画です。

見終わった後は、心が浄化されて、ものすごく優しい気持ちになります。こういう思いを忘れずにいたい…そんなことさえ考えさせるヒューマンドラマでした!

これはインドとパキスタンだけの話?

そもそもパキスタンとインドの関係さえ知らなかったので、見終わって歴史を調べました。両国は1947年を皮切りに、その後も何度か争いが起きていて、今なお緊張状態は続いています。こうやって映画から知識を得られるのは楽しいですね。

 

映画内ではインドとパキスタンの関係性を描いていますが、これはどの国にも通用する普遍的なテーマではないでしょうか。

アメリカだってイランと緊張状態にありますし、日本だってテレビ番組で平気でヘイトスピーチを放送している時代です。

映画内でパワンを警察からかくまってくれたバスの運転手が「あなたみたいな人が両国にもっといればいいのにね」と言います。

 

マスコミによるヘイトに毒されて、本当に大事なものを見失っている大人も多いんじゃないでしょうか。

憎しみから生まれるのは憎しみしかない。そのことを子供たちに伝えなくちゃいけないのは、大人である人々のはずなのに。

大人が堂々とヘイトをまき散らしてどうする!

 

一人の少女さえ守れない大人たちが、国をどう守るのか?

お国のお偉いさん方よ。自分の利益だけ血眼になって守るだけじゃなく、国民の平和を守ることも頑張ってくれよ。

それが出来ないなら、せめて私だけでもパワンのような人でありたい。そういう人を増やせる国でありたいよね。

日本でこれだけ面白い映画が作れるか?

いやー去年は「バーフバリ」に熱狂していましたが、今年もこんな最高のインド映画を見れるとは思いませんでした。

それにしてもインド映画って、お国柄なのか何なのか、こんなにも底ぬけて明るく優しい作品をよく作れますよね。他の国では出せない雰囲気。

 

あと、インド映画の凄いのは「面白い映画」を真面目に作っていることだと思うんです。

ぶっちゃけインド映画って「急に歌って踊るんでしょw」的な、ちょっとB級映画っぽい目で見ている人もいると思うんですよ。

でも、これだけエンタメ性とメッセージ性がしっかりあって、なおかつ面白い映画って、日本でほとんど無いですよ。

 

日本なんてどーでもいい実写映画ばっっかりで、メッセージなんて皆無。人気タレントにキャーキャー客寄せパンダが来ればいいだけですから。

 

日本でも昨年は「バーフバリ」が大きなムーブメントとなりましたが、こんな遠い島国の人々をひきつける面白さがあるんですよね。

文化も雰囲気も人も、何もかも違う国であろうと、本当に面白い映画は国境を越えて私たちに問いかけてくれるものがある。そういう映画が日本でももっと増えたらいいな。


劇中でちょいちょい聞き覚えのない単語が飛び交うのですが、そういう知識をすっとばしても単純に映画として面白いです。

神様の名前とか「聞いたことはあるなぁ…」程度でしたが、あとあと調べてみて「へー」と勉強になりました。こういうのも映画の楽しみですね。

 

本当に素晴らしい映画でした!是非みなさんも見てください!

『ある女流作家の罪と罰』あらすじ・感想・考察!地味だけど良作!2人の友情に感涙!!!

『ある女流作家の罪と罰』評価★3.9(5点満点)

第91回アカデミー賞で3部門にノミネートされた『ある女性作家の罪と罰

残念ながら日本では劇場未公開でしたので、DVDにて鑑賞いたしました!

何故これを劇場公開しなかったの!?と言いたくなるほど、素晴らしい映画でした。

今回は『ある女流作家の罪と罰』のあらすじ・感想そして、原題の意味の考察まで詳しくまとめていこうと思います!

『ある女流作家の罪と罰』のあらすじ

www.youtube.com

 

主人公はベストセラー作家”だった”、リー・イスラエル

そんな輝かしい過去の栄光もむなしく彼女は、今では酒にまみれて家賃も払えず苦しい生活をしていた。ある日飼っている猫の様子がおかしいと病院に行くが、お金が無く病院を追い出されてしまう。

 

どうしてもお金が欲しい彼女は、大事にしていた女優キャサリン・ヘプバーンが自分に宛てた手紙を手紙を売ってみたところ、意外にも高値で買い取ってもらえて驚く。

そこで、彼女は昔のタイプライターを使って、有名人たちの「偽の手紙」を作り、儲けていく。友人ジャックとも協力して、大金を得るリーだがコレクターの間でリーの手紙

が疑われ始めて…?実話を元にし、ある一人の作家の事件を描いていく。

『ある女流作家の罪と罰』の監督・キャスト

■監督…マリエル・ヘラー

知らない監督さんでしたが、調べてみると今作が2作目だそうです。1作目も日本では未公開みたいですね。

あと、めちゃくちゃ美人さんです!ぐぐってみてビックリしました!

 

■キャスト

レオノア・キャロル・イスラエル(リー)…メリッサ・マッカーシー
ジャック・ホック…リチャード・E・グランド
アンナ…ドリー・ウェルズ etc...

 

主人公を演じるコメディ作品のイメージが強いメリッサ・マッカーシー

今作での演技が高く評価され、アカデミー賞主演女優賞にノミネートされています。

『ある女流作家の罪と罰』の感想と考察※ネタバレあり

地味だけど良作

まず、一言いうなら物凄く地味な映画でした(笑)。

NYが舞台ですが華やかさは皆無ですし、役者陣もちょっと地味…。底辺ニューヨーカーの現実ってこんなものか…と切なくなりました(笑)。「SEX AND THE CITY」とは大違いです(笑)。

それでも、グッと心を掴まれるようなシーンも多々あり、見終わった後もじんわりと暖かい余韻が残る、なんとも愛おしい映画でした。

 

主人公は、かつてベストセラー小説を生み出したものの、今は家賃を何か月も滞納する落ちぶれ作家。独身・飲んだくれ・友達もいない、というけっこう詰んだ状態です。

彼女はNYの50年代の文化を愛し、それにまつわる本を書いていましたが、時代の流れもあり売れない作家へと転落。

こういう人って芸術の世界では、きっと沢山いるんでしょうね。昔なんとか賞をとった作家だけど今は何してんだろ?的な人。

 

しかし、リーは落ちぶれた状況でも自分の書きたいこと以外は書かない!というクソ傲慢な姿勢で、とうとう編集社にもブチ切れられ見放されることに。

しかし、愛猫の治療費がどうしても欲しい…と、困窮の中で見つけたのが有名人の手紙を偽装することでした。な●でも鑑定団とかでも、有名人とか偉人の手紙が鑑定に出されますが、こういうマニアはどの国でもいるもんなんですね。

その人物の人生や性格、時代背景など深い知識を持っているリーにとって、有名人の手紙を作るのは簡単なこと。彼女は偽装手紙をどんどんと作り出し、大金を得ていきます。

 

友人でゲイのジャックで飲み歩いたり、いたずら電話かけたりと楽しそうにしているんですが、その幸せも長くは続かず。最終的には警察に捕まり、彼女は刑務所に入ってしまいます。この事件が実話だというから驚きですよね。

 

正直、彼女の貧困は社会的な不条理というよりも、彼女の態度なり姿勢にも要因があるよね?と思ってしまうのですが、役者の演技が上手なのでそういうイライラがあまり起きません。

不器用でダメダメ人間だけど、だからこそ愛おしいじゃないですか。人間らしいというか。あのボロボロの服装も、丸まった背中も、化粧っ気のない顔も、妙にリアルで同情してしまう…。

 

何よりね!!!猫ちゃん出すのはズルい(笑)!!!!!

そりゃ彼女に同情もするよ!!!だって猫ちゃんだもの(笑)!!猫ちゃんのためならしょうがないよ!!と、猫という存在だけで圧倒的な納得感がある。猫ちゃんって凄い。

 

負け犬芸術家の反逆って意味では「嘘八百」を思い出させますね。

嘘八百」は贋作を作る話ですけど、落ちぶれ芸術家が一発逆転を狙うというのは、なんだかんだテーマとして好きです。

原題の言葉は誰に向けたもの?

『ある女流作家の罪と罰』…随分と仰々しいタイトルですが…実際は爽やかな友情物語でした。

 

その友情を結ぶのが、ゲイのジャック。実はリーも同性愛者なので、一緒のベッドにいても何も色っぽいことが起きない(笑)。

単に一緒にいると楽しいってだけで、二人で酒飲んだり、馬鹿な事して遊ぶんですよ。損得抜きの本当の友達って大人になってから中々見つけられるものではないので、この2人の関係は羨ましいなぁと思っちゃいました。

 

ジャックは途中から彼女と一緒に偽の手紙を売るのを手伝うんですが、犯罪に手を染めているというより、2人で協力しあってキャイキャイと楽しそうにやるんですよ(笑)。

タイトルの罪と罰ってほど重々しくはないです(笑)。悪友同士ちょっと危ない遊びをしているくらいの感覚。

 

ただ、後半になるにつれて2人の間で亀裂が生まれ始めて、とうとう捕まってしまうんですが、彼女は捕まった後に「今まで一番楽しかったわ」と言います。

彼女にとってジャックと一緒にいた、あの時間は彼女にとってかけがえのない時間だったんでしょうね。大金を得ることよりも、二人でゲラゲラと笑っていたあの日々こそ、彼女にとって必要なものだったのかもしれません。

 

この映画、原題は「Can You Ever Forgive Me?」と、邦題で全然違うんですね。

意味は「あなたは私を許してくれますか?」

この言葉の「あなた」はジャックに向けた言葉でしょうね。

 

世間から見放されても、金もなくても、それでも彼と酒飲んで、遊んでるときは何よりも楽しかった。

原題の言葉は「まだ友達でいてくれる?」という、今まで孤独に生きてきたリーにとって初めての愛情表現にも思えます。人生で一番大事なのは金や名誉ではなく、隣で心から笑いあえる誰かなのかな、と心がじんわりと温かくなるラストでした。

自分の言葉で書くということ

彼女は「企画をやらせて!」とはいうものの、実際に文章を書きだそうとしても手が止まってしまう状態。なーんも書けない作家になってしまったのです。

そんな彼女が、その人になりきって手紙を書いたら、スラスラと言葉が出てくるのは皮肉めいてますよね。しかも、内容も素晴らしくて評価も高いという。

 

彼女のやっていたことが、贋作ではないのが面白いんですよね。サインは真似て書いてますが、手紙の内容は彼女のオリジナル。

リーにとっては偽装手紙は「作品」なわけです。なんだかんだ凄い才能ですよね。文章が上手だとしても、誰かになりきって書くって、そうそう出来ないと思う。

 

とはいえ、彼女の行いは物書きとして正しいか?というと微妙ですよね。

文章を書くって身を切るような思いで、自分の言葉を紡いでいくことだと思うんです。自分の内面に向き合って、時には開けたくない箱を開けて、辛くてもしんどくても書く。

そういう文章こそ物書きには必要だし、そういう文章は読んでいる人に大きな感動を与えていくものになる。でも、彼女はそれを放棄しちゃったんですよね。

それは、多分今の落ちぶれた自分を受け入れたくないから。ベストセラーを生み出した過去にすがり、いつまでたっても這い上がれない。

 

物語のラスト、出所した彼女は「今までの自分を書きたい」と言い始めます。

彼女にとって何が大事で、何が必要だったのか。

自分自身を見つめ直すことで、ようやく彼女は筆を起こすことが出来たのでしょう。彼女の作家人生はここから、もう一度スタートする。そんな希望に満ちたラストでした。

 

人を許し、人に許されていくこと。そうすることで、人は少しずつ成長したり強くなれるのかもしれないですね。

 

タイトルよりも全然ライトな雰囲気で見やすかったです(笑)。くすくすっと笑える場面も度々ありましたし。

バックで流れるジャズも良い味をだしてますな。劇場公開はなかったものの、見て損はない映画です。是非ごらんください!

【ロケットマン】あらすじと感想!正真正銘のキラキラミュージカル映画!!

ロケットマン」評価★4.0(5点満点)

世界的シンガー、エルトン・ジョンを描いた「ロケットマン」見てきましたー!

ボヘミアン・ラプソディ」や「アリースター誕生」など、音楽映画が盛り上がりを見せていますが、果たして「ロケットマン」はいかに。

 

今回は映画「ロケットマン」のあらすじや感想をまとめていきます。普通にネタバレしてるので、ご注意を!

ロケットマン」あらすじ

www.youtube.com

 

世界的歌手エルトン・ジョンの半生を、彼の名曲とともに描くミュージカル映画

類まれない音楽の才能を持つエルトン・ジョンがいかにしてスターの道を駆け上がっていったのか。

 

生涯の盟友バーニー・トーピンとの出会い、そして自身のセクシャリティ、アルコールやドラッグ中毒に溺れた過去など、彼の波乱と苦悩に満ちた人生とは。

ロケットマン」の監督とキャスト

■監督…デクスター・フレッチャ

監督はあの「ボヘミアン・ラプソディ」を途中から引き継ぎ、完成させた方です。

主演のタロン・エガートンとは「イーグルジャンプ」でも一緒に仕事していますね。

 

■キャスト

エルトン・ジョンタロン・エガートン

バーニー・トーピンジェイミー・ベル

・ジョン・リード…リチャード・マッデン

etc...

 

キングスマン」で大人気のイケメン俳優タロンくんがエルトン役に大抜擢!!

キングスマン2」ではエルトンと共演していますよね。

ちなみにボヘミアンラプソディのように吹き替えではなく、「ロケットマン」はタロンくん自身が全曲歌っています!

タロンくんは映画「SING」でもエルトンの曲を歌っていますし、演劇学校に入学する際に試験で歌ったのもエルトンの曲だそう。不思議な縁ですよね。

ロケットマン」の感想 ※ネタバレ注意

正真正銘のミュージカル映画

昨年大ヒットした「ボヘミアンラプソディ」の監督(後任ですが)なので、なにかと「ボヘミアンラプソディ」と比べられがちですが「ロケットマン」は全く別物です。

 

ボヘミアンラプソディ」はあくまでライブシーンで歌うだけでしたが、「ロケットマン」は正真正銘のミュージカル映画。登場人物たちが急に歌うし、急に踊り出します。

ボヘミアンラプソディ」みたいなのをイメージしていると「思っていたのと違う!」となってしまうので注意しましょう(笑)。全く別物のジャンルだと捉えてください。

 

で、その点をふまえて鑑賞した結果を言うと、ミュージカル映画として言えばかなり好きな部類でした。

全編通して、とにかくハッピー!

エルトンの名曲とともに皆が歌って踊って!

ポスターにも書いてあるように、2時間魔法をかけられたようにポーとトリップしているかのような感覚に(笑)


何よりタロンくんがすごい!天は二物も三物も与えるんだな!と驚くほどに多才。

ハゲ頭でもカッコいいしな!(笑)

 

ステージでは道化師のように明るく振る舞ったかと思いきや、裏では孤独に苦しみアルコールや薬物に溺れて…。エルトンの表と裏の顔を、ここまで演じきるとは。

男性とのシーンもあり、かなり思い切ったシーンをしていてビックリ。

 

あと、タロンくんが絶妙にキュートなのがいいんですよ。

お母さんにゲイをカミングアウトするシーン(口がモゴモゴするのが可愛い)とか、

バーニーに「うるせー!黙ってろ!」と叫んだ後に「ごめん」って呟くシーンとか。

 

彼のどうしようもない孤独ゆえの痛々しさと、タロン君がもつ絶妙な愛らしさが入り混じって、なんとも切ない。

エルトン自身のあの憎めないキャラクターを見事に体現していましたね。あれはタロンくんがそもそも持っている、人懐っこい雰囲気があるからこそ醸し出されるものだなぁ~と。

 

実は「ロケットマン」は「ボヘミアンラプソディ」よりも長い年月をかけて制作しています。

エルトンにせよフレディにせよ、これだけの世界的スターを演じる俳優を探すのは中々に大変な道のりだったようで…。

当初はエルトン役にジャスティン・ティンバーブレークの名も挙がったそうですが…確かにそれはそれで見てみたいかも(笑)。

孤独じゃないと芸術は生まれない

物語は中毒者のセラピー室のような場所から幕を開け、エルトン自身が過去を振り返っていくという流れになっています。

 

彼の人生はまさに「孤独」の一言に尽きます。

自分に無関心な両親、親友であり盟友バーニーとの叶わない恋、愛を教えてくれたはずのジョンの裏切り。

 

彼はずっと孤独で、埋まらない心の穴にもがき苦しんでいきます。

どんだけ自分の音楽が世界中で愛されて、莫大な富と名誉を得ても本当にほしい愛は手に入らない。

スターの宿命とはいえ、ものすごく切ないですよね。

 

そして、何よりも皮肉なのは孤独であるがゆえに、美しい芸術が生まれていくということ。どうすることも出来ない苦しみや悲しみがあるからこそ、芸術に昇華していけるんでしょうね…。せつねぇなぁ…。

 

そして、今作最大のクソ野郎男「ジョン・リード」。

エルトンを愛していると見せかけて近づき、本当は才能を利用して金儲けしたいだけの今作きってのヒールなんですが…。

 

実はこのジョン、あのボヘミアンラプソディのあのジョンと同一人物なんですね!

ボヘミアンラプソディだと可哀相なマネジャーでしたが、今作ではエルトンを陥れるという全然違う描き方でした。

エルトンも後々ジョンに対して、裁判を起こしているみたいですし。

 

孤独を感じると、人はどんなに胡散臭くても、目の前の抜け殻のような愛にすがってしまうのでしょうね。

本当の愛情は、実はすごく近くにあると気づかずに。

人生はいつでもやり直せる。自分が自分である限り

エルトンはどんどんアルコールや薬物中毒に堕ちていくのですが、現在は完全に中毒を絶ち、再びスターの座に返り咲きました。

しかも、愛する男性と結婚し、子ども(養子)との時間を増やすために今年いっぱいでツアーは終了すると発表しています。

自暴自棄になっていたエルトンからは考えられない姿ですね。

 

今作は人生のドン底に堕ちたとしても、人生はどうにかやり直せるよというエルトンからの力強いメッセージも込められています。

 

大事なのはありのままの自分を愛すること。そして、誰か一人でもありのままの自分を愛してくれる人がいれば、生きていけるということ。

エルトンにとって、その存在は生涯のパートナーとなるバーニーだったということですね。

 

彼の歌詞があったからこそ、エルトンは世界的スターになれたし、バーニーにとってもまた然り。恋愛的な愛情だけでなく、親友として、あるいは家族として「愛し愛されること」は人生には必要なんだなぁ~としみじみ。

総じていえば「ジェットコースター」的映画

こんな感じで音楽パートも人間ドラマも終始楽しいのですが、これらがガーーー!と物凄いテンポよく語られていくので、ちょっと途中で疲れます。

本当ジェットコースターに乗っているかのような疾走感。最後は「あ?え?もうショーは終わり?」と、急に現実に引き戻されるのでちょっとさみしい。

 

テンポが良すぎて、上手く感情移入できずに終わってしまった感は否めないです。

ちなみに、ラストはタロンくんが映画「SING」でも歌った「I'm still standing」で〆。

 

www.youtube.com

 

映画では当時のPVを再現しています。

「俺はまだ立っている」の歌詞は、治療を終え、再スタートを切ったエルトンそのもの。

PVをそっくりそのまま再現するって面白いラストだなーと思いました。エルトンのファンにはたまらない演出じゃないでしょうか。

 

正直言うと、実はエルトン・ジョンの曲はそこまで知らなかったですし、エルトン・ジョン自身のこともあまり知らなくて。

なので、鑑賞前は「楽しめるかなー」と不安でしたが、そんな不安は一切必要ないくらい楽しいミュージカル映画でした!

 

やっぱりミュージカル映画は映画館で見るのに限ります。是非、映画館にて鑑賞してください!