『ある女流作家の罪と罰』あらすじ・感想・考察!地味だけど良作!2人の友情に感涙!!!

『ある女流作家の罪と罰』評価★3.9(5点満点)

第91回アカデミー賞で3部門にノミネートされた『ある女性作家の罪と罰

残念ながら日本では劇場未公開でしたので、DVDにて鑑賞いたしました!

何故これを劇場公開しなかったの!?と言いたくなるほど、素晴らしい映画でした。

今回は『ある女流作家の罪と罰』のあらすじ・感想そして、原題の意味の考察まで詳しくまとめていこうと思います!

『ある女流作家の罪と罰』のあらすじ

www.youtube.com

 

主人公はベストセラー作家”だった”、リー・イスラエル

そんな輝かしい過去の栄光もむなしく彼女は、今では酒にまみれて家賃も払えず苦しい生活をしていた。ある日飼っている猫の様子がおかしいと病院に行くが、お金が無く病院を追い出されてしまう。

 

どうしてもお金が欲しい彼女は、大事にしていた女優キャサリン・ヘプバーンが自分に宛てた手紙を手紙を売ってみたところ、意外にも高値で買い取ってもらえて驚く。

そこで、彼女は昔のタイプライターを使って、有名人たちの「偽の手紙」を作り、儲けていく。友人ジャックとも協力して、大金を得るリーだがコレクターの間でリーの手紙

が疑われ始めて…?実話を元にし、ある一人の作家の事件を描いていく。

『ある女流作家の罪と罰』の監督・キャスト

■監督…マリエル・ヘラー

知らない監督さんでしたが、調べてみると今作が2作目だそうです。1作目も日本では未公開みたいですね。

あと、めちゃくちゃ美人さんです!ぐぐってみてビックリしました!

 

■キャスト

レオノア・キャロル・イスラエル(リー)…メリッサ・マッカーシー
ジャック・ホック…リチャード・E・グランド
アンナ…ドリー・ウェルズ etc...

 

主人公を演じるコメディ作品のイメージが強いメリッサ・マッカーシー

今作での演技が高く評価され、アカデミー賞主演女優賞にノミネートされています。

『ある女流作家の罪と罰』の感想と考察※ネタバレあり

地味だけど良作

まず、一言いうなら物凄く地味な映画でした(笑)。

NYが舞台ですが華やかさは皆無ですし、役者陣もちょっと地味…。底辺ニューヨーカーの現実ってこんなものか…と切なくなりました(笑)。「SEX AND THE CITY」とは大違いです(笑)。

それでも、グッと心を掴まれるようなシーンも多々あり、見終わった後もじんわりと暖かい余韻が残る、なんとも愛おしい映画でした。

 

主人公は、かつてベストセラー小説を生み出したものの、今は家賃を何か月も滞納する落ちぶれ作家。独身・飲んだくれ・友達もいない、というけっこう詰んだ状態です。

彼女はNYの50年代の文化を愛し、それにまつわる本を書いていましたが、時代の流れもあり売れない作家へと転落。

こういう人って芸術の世界では、きっと沢山いるんでしょうね。昔なんとか賞をとった作家だけど今は何してんだろ?的な人。

 

しかし、リーは落ちぶれた状況でも自分の書きたいこと以外は書かない!というクソ傲慢な姿勢で、とうとう編集社にもブチ切れられ見放されることに。

しかし、愛猫の治療費がどうしても欲しい…と、困窮の中で見つけたのが有名人の手紙を偽装することでした。な●でも鑑定団とかでも、有名人とか偉人の手紙が鑑定に出されますが、こういうマニアはどの国でもいるもんなんですね。

その人物の人生や性格、時代背景など深い知識を持っているリーにとって、有名人の手紙を作るのは簡単なこと。彼女は偽装手紙をどんどんと作り出し、大金を得ていきます。

 

友人でゲイのジャックで飲み歩いたり、いたずら電話かけたりと楽しそうにしているんですが、その幸せも長くは続かず。最終的には警察に捕まり、彼女は刑務所に入ってしまいます。この事件が実話だというから驚きですよね。

 

正直、彼女の貧困は社会的な不条理というよりも、彼女の態度なり姿勢にも要因があるよね?と思ってしまうのですが、役者の演技が上手なのでそういうイライラがあまり起きません。

不器用でダメダメ人間だけど、だからこそ愛おしいじゃないですか。人間らしいというか。あのボロボロの服装も、丸まった背中も、化粧っ気のない顔も、妙にリアルで同情してしまう…。

 

何よりね!!!猫ちゃん出すのはズルい(笑)!!!!!

そりゃ彼女に同情もするよ!!!だって猫ちゃんだもの(笑)!!猫ちゃんのためならしょうがないよ!!と、猫という存在だけで圧倒的な納得感がある。猫ちゃんって凄い。

 

負け犬芸術家の反逆って意味では「嘘八百」を思い出させますね。

嘘八百」は贋作を作る話ですけど、落ちぶれ芸術家が一発逆転を狙うというのは、なんだかんだテーマとして好きです。

原題の言葉は誰に向けたもの?

『ある女流作家の罪と罰』…随分と仰々しいタイトルですが…実際は爽やかな友情物語でした。

 

その友情を結ぶのが、ゲイのジャック。実はリーも同性愛者なので、一緒のベッドにいても何も色っぽいことが起きない(笑)。

単に一緒にいると楽しいってだけで、二人で酒飲んだり、馬鹿な事して遊ぶんですよ。損得抜きの本当の友達って大人になってから中々見つけられるものではないので、この2人の関係は羨ましいなぁと思っちゃいました。

 

ジャックは途中から彼女と一緒に偽の手紙を売るのを手伝うんですが、犯罪に手を染めているというより、2人で協力しあってキャイキャイと楽しそうにやるんですよ(笑)。

タイトルの罪と罰ってほど重々しくはないです(笑)。悪友同士ちょっと危ない遊びをしているくらいの感覚。

 

ただ、後半になるにつれて2人の間で亀裂が生まれ始めて、とうとう捕まってしまうんですが、彼女は捕まった後に「今まで一番楽しかったわ」と言います。

彼女にとってジャックと一緒にいた、あの時間は彼女にとってかけがえのない時間だったんでしょうね。大金を得ることよりも、二人でゲラゲラと笑っていたあの日々こそ、彼女にとって必要なものだったのかもしれません。

 

この映画、原題は「Can You Ever Forgive Me?」と、邦題で全然違うんですね。

意味は「あなたは私を許してくれますか?」

この言葉の「あなた」はジャックに向けた言葉でしょうね。

 

世間から見放されても、金もなくても、それでも彼と酒飲んで、遊んでるときは何よりも楽しかった。

原題の言葉は「まだ友達でいてくれる?」という、今まで孤独に生きてきたリーにとって初めての愛情表現にも思えます。人生で一番大事なのは金や名誉ではなく、隣で心から笑いあえる誰かなのかな、と心がじんわりと温かくなるラストでした。

自分の言葉で書くということ

彼女は「企画をやらせて!」とはいうものの、実際に文章を書きだそうとしても手が止まってしまう状態。なーんも書けない作家になってしまったのです。

そんな彼女が、その人になりきって手紙を書いたら、スラスラと言葉が出てくるのは皮肉めいてますよね。しかも、内容も素晴らしくて評価も高いという。

 

彼女のやっていたことが、贋作ではないのが面白いんですよね。サインは真似て書いてますが、手紙の内容は彼女のオリジナル。

リーにとっては偽装手紙は「作品」なわけです。なんだかんだ凄い才能ですよね。文章が上手だとしても、誰かになりきって書くって、そうそう出来ないと思う。

 

とはいえ、彼女の行いは物書きとして正しいか?というと微妙ですよね。

文章を書くって身を切るような思いで、自分の言葉を紡いでいくことだと思うんです。自分の内面に向き合って、時には開けたくない箱を開けて、辛くてもしんどくても書く。

そういう文章こそ物書きには必要だし、そういう文章は読んでいる人に大きな感動を与えていくものになる。でも、彼女はそれを放棄しちゃったんですよね。

それは、多分今の落ちぶれた自分を受け入れたくないから。ベストセラーを生み出した過去にすがり、いつまでたっても這い上がれない。

 

物語のラスト、出所した彼女は「今までの自分を書きたい」と言い始めます。

彼女にとって何が大事で、何が必要だったのか。

自分自身を見つめ直すことで、ようやく彼女は筆を起こすことが出来たのでしょう。彼女の作家人生はここから、もう一度スタートする。そんな希望に満ちたラストでした。

 

人を許し、人に許されていくこと。そうすることで、人は少しずつ成長したり強くなれるのかもしれないですね。

 

タイトルよりも全然ライトな雰囲気で見やすかったです(笑)。くすくすっと笑える場面も度々ありましたし。

バックで流れるジャズも良い味をだしてますな。劇場公開はなかったものの、見て損はない映画です。是非ごらんください!