『バイス』ネタバレあらすじ・感想!笑って考える社会派ブラックコメディー

バイス』個人的評価★3.7点(5点満点)

バイス』がようやくレンタル解禁したので鑑賞しました。

丁度『記者たち』と同じ時期に公開されていたのですが、どちらを見るか悩んで『記者たち』を選んだんですよねー。どちらもイラク戦争の真実を描き出す映画です。

 

バイス』はイラク戦争の首謀者とも言われているディック・チェイニーを主人公の半生を描きつつ、なぜイラク戦争は起きたのか?という真相に迫る社会派コメディー。そんな『バイス』のあらすじやネタバレ感想をまとめていきます。

バイス』のあらすじ

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1960年代半ば、酒癖の悪い青年だったチェイニーは、後に妻となる恋人リンに叱責されたことをきっかけに政界の道へと進み、型破りな下院議員ドナルド・ラムズフェルドの下で政治の裏表を学んでいく。

やがて権力の虜になり、頭角を現すチェイニーは、大統領首席補佐官、国務長官を歴任し、ジョージ・W・ブッシュ政権で副大統領の座に就くが……。
映画.comより一部引用(https://eiga.com/movie/90070/

バイス』の監督・キャスト

■監督…アダム・マッケイ

『マネーショート華麗なる大逆転』の監督やスタッフが再集結した今作。

アカデミー賞では8部門にノミネートされ、脚本や役者の演技が高く評価されました。ちなみに、アカデミー賞ではメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞。

 

■キャスト

ディック・チェイニークリスチャン・ベール

リン・チェイニー…エイミー・アダムス

ドナルド・ラムズフェルドスティーヴ・カレル

ジョージ・W・ブッシュサム・ロックウェル

 

主要キャストはほぼアカデミー賞にノミネート。

特にクリスチャン・ベールは今作の出演にあたり、体重を約18kg増量したことも話題になりました。

後からディック・チェイニーの写真を見たら、とってもソックリでビックリしました。元の顔は似ていないのに…!役作りとメイク技術の凄まじさに茫然…。

 

個人的には妻役を演じ、助演女優賞にもノミネートされたエイミー・アダムスも好きです!

魔法にかけられて』『メッセージ』など、どんな演技もこなす美人さん。

 

今作は「リンが妻ならどんな男でも政治家になれる」と言われたほど有能な女性を演じきっています。力強い演説シーンが素晴らしい!

バイス』ネタバレあらすじ

後にアメリカ副大統領となり、「史上最悪の副大統領」とも評されたディック・チェイニーの半生を描いていく映画。

物語は1960年代から始まる。当時、酒浸りだったチェイニーは大学を退学になり、仕事もまともに出来ずにいた。

しかし、成績優秀の恋人リン(後の妻)に叱咤され、大学に再入学し連邦議会インターンとして働くことに。

 

そこで、ドナルド・ラムズフェルドに出会い、政治の世界でその才能を発揮。

34歳という異例の若さで大統領首席補佐官にもなり順風満帆と思いきや、後の選挙で敗退。

リンの力を借りて、下院議員選挙で当選を果たしますが長女が同性愛者であることが発覚し、政界からは去ることを決めます。共和党は同性愛には反対なので、長女に被害が及ぶのを避けたのです。

 

その後、チェイニーは石油会社ハリバートンのCEOに就任。家族と共にのんびりと過ごしていたところ、ブッシュ元大統領の息子ジョージ・W・ブッシュから大統領選に出馬するので、副大統領にならないかと打診されます。

 

ブッシュには政治的能力が無いと気づいていたチェイニーは、それを逆手にとり外交や軍事など、あらゆる権力を自分のものにしようと画策。

そして、ブッシュが大統領になると、ラムズフェルドを国防長官に迎え、さらには法解釈により自身の副大統領権限を拡大。もはや大統領よりも強い権力を手にしていきます。

 

そして、9.11テロが起きるとチェイニーは国民への情報操作や他の議員も操りつつイラクには大量破壊兵器がある」という不確かな情報をもとにイラクと戦争を開始。

 

しかし、戦争が進むにつれ「本当にイラクが関与しているのか?そもそも兵器があるのか?」と国民の不信感も強まりチェイニーも批判の対象に。

ラムズフェルドを解任し、チェイニーのバッシングが強まるなか、心臓発作を起こし危険な状態となりますが、ある一人の男性の心臓を移植したことで九死に一生を得ます。

 

その後も政治家として活動しているチェイニーですが、イラク戦争の発端をつくったのではないかという批判に対して「あなたたちが愛する人を守るためにやった。私が謝ることなど無い」と語りかけます。

バイス』感想

痛快な社会派コメディー

バイス』ではチェイニーがいかにアメリカを操っていたのか、そしてイラク戦争はなぜ起きたのかに迫ります。

 

そもそもチェイニーが何故イラク戦争を仕掛けた理由は、イラクの石油権を得るためだと言われています。石油会社ハリバートン社のCEOだったこともあり、チェイニーは同社の大株主でした。

またイラク戦争時、ハリバートン社はアメリカ軍支援事業の契約を結び、戦争中に事業を急速に拡大。結果としてハリバートン社は31億ドルもの契約高を打ち出しています。大株主であるチェイニーも随分と儲けたでしょう。

 

みなさんもご存知の通りイラク大量破壊兵器はありませんでした。

そもそも兵器がないのに、戦争を仕掛けているので戦争が長期化。最終的には多くのアメリカ兵が命を落とし、イラクとの関係も悪化と最悪の結末で終わりました。

 

要は、この映画ではイラク戦争はチェイニーの私欲ために生まれたんじゃないの?と描きつつ、こんなアメリカにしたのは「ワイスピ楽しみ」とか能天気に話している貴方なのでは?と問いかけるのです。(ワイスピのくだりは映画のラストを見てご確認を!痛いとこ突いてくるなぁというラストでした)

私たちは笑ってるだけでいいのか?

こう書くと「うーん、なんか政治要素が強くて難しそう」と思うかもしれませんが、この映画はあくまでコメディです。

時にはプププと笑いながら見れますし、何ならアメリカの政治事情に詳しくなくても楽しんで鑑賞できます。

 

チェイニーが政界を去り「その後は家族とともに幸せに暮らしていますとさ。めでたしめでたし」といった具合で、急にエンドロールが始める部分とか「!?」となっちゃいました。え!?まだまだ時間残ってますけど!?と思ったら、そこから物語が進みだすから面白い。

政治ものって小難しくて見る気しないな~って人も、この映画なら飽きずに見れると思います。ギャグもありますし、ところどころ分かりやすく解説してくれるので。

 

とはいえ、アハハと笑いながらも「ん?これ笑ってる場合なのか?」と急に怖くなったり。

 

アメリカの人たちはこれをどう見るのでしょう。

トランプ大統領もあらゆるバッシングがなされていますが、それでもそんな大統領を選んだのは国民です。

 

そして、それは日本も同じ。今年の夏の選挙は若者の投票率が著しく低かったを報じられています。

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そのことは何を意味するのか。

映画のラスト、2人の若い女性の会話にこそ、その真意が詰まっています。

今なお続く目の前の問題に目を背けているだけでいいのか。そんなことを考えさせられる映画です。

語り手カートの考察

この物語はずーと男性の語り部カートがいて、チェイニーについて説明してくれます。

カート妻と息子と幸せそうに暮らしている普通の男性で、「この男性は誰なの?」と正体不明のまま話が進みます。

 

そして、物語の終盤。チェイニーの説明をしていた男性が急に車で轢かれ、帰らぬ人になってしまいます。

「え?何?え?」と困惑していると、なんと彼の心臓が倒れたチェイニーのもとに移植。

 

チェイニーは見事復活し「私はイラク戦争に対して謝ることなんか何もないね」とテレビ番組で語るのです。

一方、語り部のカートは「少しくらい感謝の気持ちがあってもいいよね」と皮肉たっぷりに批判。

 

これは何を意味しているかというと、心臓移植にせよイラク戦争にせよ、犠牲になったのは彼自身ではなく赤の他人であるということでしょう。

 

チェイニーが莫大の富を手に入れるために、数えきれないほどのアメリカ人と現地のイラク人が苦しんだのは紛れもない事実です。

ましてや、アメリカを守るといった大義名分を掲げておきながら、結果としてアメリカはボロボロになって戦争を終えた。

政治家が勝手に始めた戦争を、国民が尻拭いする。これはいつの時代も変わらないのかもしれません。

 

バイス』を合わせて『記者たち』という映画を見ると、イラク戦争についてより分かりやすくなるかと思います。

 

『記者たち』は「何故イラクなんだ?おかしいぞ?」と疑問に思った新聞記者たちが、その秘密を暴こうと奮闘する物語です。

 

戦争で犠牲になるのは『バイス』に出てくるような政治家ではなく、アメリカを守ろうとした国民たちです。

その国民たちにアメリカ政府を何をしたのかを『記者たち』から知ってほしい。

感想をまとめていますので、是非こちらもご参考に!

 

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個人的には国民視点に寄り添った『記者たち』のほうが好みでした。とはいえ、どちらも見てよかったと思える作品です。

日本人はどうしても政治的なテーマを扱った作品をどこか避けがちですが、でも今こそ日本でもこういう作品が作られるべきではないでしょうか。

 

今年の夏には日本で『新聞記者』が公開され「干されるの覚悟で制作した」と制作陣が言っていましたが、この映画にはアカデミー賞にノミネート歴のある有名俳優が数多く出演しています。

本当に伝えたいテーマを作ることが出来る。それは恋愛や病気ものだけでなく、社会的なもっと奥深いテーマであっても。そういう映画が日本にも増えてほしい、そう願います。