「記者たち 衝撃と畏怖の真実」★3.8点(5点満点)
「記者たち 衝撃と畏怖の真実」(以下「記者たち」)を見てきました。
恐ろしいアメリカの闇と、そして果敢に政府と戦ったジャーナリストたちの物語です。政治的内容が多いため、ちょっと小難しいですが、是非とも今の日本人に見てほしい映画でした。
果たして、私たちは政府の言葉をどこまで信じるべきなのか。ジャーナリズムとは何か。そんなことを考えさせられる「記者たち 衝撃と畏怖の真実」のあらすじと感想をまとめていきます。
「記者たち 衝撃と畏怖の真実」のあらすじ
2002年、ジョージ・W・ブッシュ大統領は、サダム・フセイン政権を倒壊させるため「大量破壊兵器の保持」を理由にイラク侵攻に踏み切ることを宣言。
ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストといった大手新聞をはじめ、アメリカ中の記者たちが大統領の発言を信じて報道を続ける中、地方新聞社を傘下にもつナイト・リッダー社ワシントン支局の記者ジョナサン・ランデーとウォーレン・ストロベルは、大統領の発言に疑念を抱き、真実を報道するべく情報源をたどっていくが……。
(映画.comより引用:https://eiga.com/movie/90232/)
9.11後、愛国心が高まるアメリカで、かのブッシュ大統領は「イラクに大量破壊兵器がある」と言いました。その言葉をきっかけに、アメリカはイラク戦争を開始。
しかし「大量破壊兵器はなかった」という最悪の結末を迎え、戦争は長期化。アメリカは多くの犠牲者を出す羽目になりました。
この映画はその裏側にあった記者たちの奮闘、そして衝撃の真実を描きだしています。
「記者たち 衝撃と畏怖の真実」の監督・キャスト
■監督…ロブ・ライナー
代表作「スタンド・バイ・ミー」「最高の人生のはじめ方」「LBJ ケネディの意志を継いだ男 L」
■キャスト
ジョナサン・ランデイ:…ウディ・ハレルソン
ジョー・ギャロウェイ:…トミー・リー・ジョーンズ
ウォーレン・ストローベル…ジェームズ・マースデン
ヴラトカ:…ミラ・ジョヴォヴィッチ etc...
同僚役には「ヘアスプレー」や「魔法にかけられて」など高い歌唱力が自慢のジェームズ・マースデン。
その他にも豪華な役者が集合。また、監督のロブ・ライナーもナイト・リッダーの編集長役で出演しています。
「記者たち 衝撃と畏怖の真実」の感想
国は平気で嘘をつく。その事実をどう受け止めるか
物語は「イラクに破壊兵器はない」ということを伝えようと、毎日靴の底をすり減らしながら裏取りを進めて行く新聞記者の奮闘が描かれています。真実を追い求めるということが、どれだけ大変かが分かります。
お恥ずかしながら、このような新聞社があったということ、さらにはイラク戦争のそもそもの発端について初めて深く知りました。(ブッシュ大統領がなんかやらかした程度は知っていた)
自国(あるいは個人の)利益のために平気で国が嘘つくという恐ろしい事実が実際にあるのです。そして、現地に行くのは国のお偉いさんではない。一国民である兵士です。犠牲になるのは権力を持たない人々なのです。
そんな恐ろしい事実を主人公の新聞社だけでなく、戦争により歩けなくなった一人の青年との視点をからめて描き出していく作品です。
劇中ナイト・リッダーの編集長は社員にこのように声をかけます。
「他のメディアが政府の広報になるなら、やらせておけ。
私たちは子どもを戦場に送る親たちの味方だ」
メディアの一番の役割は「一般市民に正しい情報を知らせる事」です。この台詞にはグッときましたね。
さて、この恐ろしい事実はアメリカに限った話でしょうか。日本でも政府による嘘が堂々とニュースで報道されています。
「アベノミクスで景気が良くなっている」と言っていた政府。しかし、真実はその逆でした。
昨年、厚生労働省の「毎月勤労統計」の不正も発覚したことは、記憶に新しいでしょう。
映画内でも語られるように数字は嘘をつきません。
しかし、政府がその数字を変えていたら?最早、真実に辿り着くことは不可能です。日本政府はこういった恐ろしいこと平然とやっていたのです。
更に恐ろしい事に、政府は過去8年の賃金水準のデータを隠ぺいどころか消去したという報道が出ました。
数字が消されてしまったら証拠をつかむことも議論することさえ出来ません。これが近代国家とした正しい在り方なのでしょうか?
この物語はアメリカだから起きたことではありません。日本だって同じです。私たちはその時「知らなかった」と絶望するだけなのでしょうか?
私はそんなの嫌です。だから、少しでも「このニュースおかしいな」と思える、そういった知識を身に付けていきたいと思います。
お仕事映画としても良い
社会派映画としても素晴らしいですが、お仕事映画としても良い作品です。
印象的だったのは「ニューヨークタイムズやワシントンポストが間違っていて、お前らのような極小新聞社が正しいとでも言うのか?」という台詞。
毎日駆けずり回って裏取りをしていても、周囲の人間からこのような言葉を投げつけられる。仕事とは何か?というのを考えたくなるセリフでした。
それでも、プライドを持って、最後まで真実を追い求める彼らの姿にはグッときました。報道ってこんなに大変な仕事なんだなぁ…と知りました。
素晴らしい映画だが尺が短すぎる!
一つマイナス点を挙げるとするならば、時間が短すぎる!ってことですね。
これだけ壮大な話なのに上映時間は1時間半くらいなので、とにかく展開が早いです。
内容も政治的要素が多いので、とにかく話についていくのがやっと…という感じでした。字幕も難しい単語が並ぶので、超頭使いましたね。
とはいえ、無駄なシーンもなくサクサク進むので見やすいと言えば見やすいです。
あと、物語の結末事態はハッピーエンド!大成功!ではないので、この点に関してもどう思うかでしょうね。
ご存知の通り、ナイトゲッター社の努力もむなしく、アメリカは最悪の決断をしてしまい、多くの犠牲者を出してしまいました。
映画も決して爽やかなラストではないですが、それでも硬派な社会映画として素晴らしい作品です。
ただ、テーマは素晴らしいのですが、映画としてそれを丁寧に描き切っているかというと首をかしげたくなる出来です。こんな良いテーマなのに作品が追いついていない!という勿体ない作品でした。
見終わった後、あなたのニュースに向ける目が変わるかもしれません。
芸能人の浮気や不祥事など、どうしようもないニュースを垂れ流しているワイドショー。
果たしてメディアの役割とは何なのか。メディアを見る側の私たちも今一度考える必要があるでしょう。
同じジャーナリスト映画で言えば、アカデミー賞作品賞にも輝いた「スポットライト 世紀のスクープ」も必見です。
こちらはアメリカのマサチューセッツ州ボストンの「The Boston Globe」の新聞記者たちの物語です。
カトリック教会の神父による性的虐待の事実を描こうとする姿が描かれています。巨大な権力に立ち向かう、ジャーナリストたちの姿に胸がうたれる作品です。
是非、今作と併せて見てください。