「ブラッククランズマン」評価★4.0(5点満点)
アカデミー賞脚色賞、カンヌ国際映画祭でもグランプリを獲得した作品です。
黒人警察官が白人至上主義の「KKK」に潜入するというとんでもないエピソード(実話)を映画化。原作は2014年に発行された同タイトルの小説。
黒人監督であるスパイク・リーは果たしてどんな作品を完成させたのか。そして、アカデミー賞でも話題となった「グリーンブック」との差は何か?など考察していきたいと思います!
「ブラッククランズマン」のあらすじ
舞台は1979年のアメリカ、コロラドスプリングス。ロン・ストールワースはアフリカ系アメリカ人として初めて警察官に採用され、潜入捜査を任せられる。
ある日、ロンは新聞広告にあった白人至上主義集団「クー・クラックス・クラン(通称:KKK)」に白人のフリをして電話をかけ、潜入捜査を試みる。
とはいえ、黒人であるロンはKKKと接触することは不可能。そこで、白人の同僚をKKKに潜入させ、捜査を進めていく。すると、KKKではある計画が進められていて…?
「ブラッククランズマン」の監督・キャスト
■監督…スパイク・リー
元々はこの「ブラック・クランズマン」は「ゲットアウト」のジョーダンピール監督に映画化の話がいったそうです。
ですが、ジョーダンが「これは彼が撮るべきだ」とスパイク・リーに渡したんだとか。結果としては大成功ですね。
■キャスト
ロン・ストールワース…ジョン・デヴィッド・ワシントン
フリップ・ジマーマン…アダム・ドライバー
パトリス・ダマス…ローラ・ハリアー
デービッド・デューク…トファー・グレイス etc...
黒人警察官を演じているのは、デンゼル・ワシントンの息子!堂々とした演技でした。白人警察を演じるのは今ひっぱりだこのアダム・ドライバー。
そして、ロンの彼女?には、「スパイダーマン・ホームカミング」にも出演していたローラ・ハリアーちゃんも出演。
アフロヘアーと70年代のレトロファッションがよく似合ってました!美人は何来てもキレイ!(笑)
「ブラッククランズマン」の感想まとめ
コミカルな中で描かれる、差別の恐怖
映画自体はテンポもよく、コミカルな部分はありつつも潜入捜査ものならではのハラハラドキドキ感を楽しめる作品です。
しかし、映画の至る所に黒人たちが抱えている人種差別の描写が入ってきます。
例えば、KKKのメンバーがなにやら射撃を楽しんでいると思いきや、撃っていたのは黒人に見立てた看板だった…とか。しかも、その黒人の看板が逃げているようなポーズなのも後味悪いですね…。
実はこの看板、映画用に作ったものではなく実際にネットで販売しているものだそう。つまり、現代でもこれを欲している人がいるというわけです。怖い…。
そのほかにも、警察の取り締まり中に白人の警察官が黒人女性の体を触ったり、ロンが警察署内でも同僚から嫌がらせをされたりと、反吐が出るくらい嫌~な感じで細かく描かれています。
数年前まで(むしろ今でも)こんなひどいことが日常で起きてたのか…と思うとゾッとしますね。
しかし、この映画の奥深いところは単純に「白人VS黒人」の構図だけではないというところです。
「ヘイト」が生むのは「ヘイト」だけ
黒人警察官ロンの代わりにとなるのは、白人のフリップです。しかし、実は彼もKKKにおいて嫌悪されている「ユダヤ人」。つまり、フリップもKKKから見れば敵みたいなもの。
しかし、フリップ自体はユダヤ人という自身のルーツはそこまで意識していません。肌が黒い黒人に比べれば、日常生活で身の危険を感じたり差別することはありませんから。
そんなフリップですが、劇中ではKKKのトチ狂った一人のメンバーに「お前本当はユダヤ人なんじゃないか?」と疑惑をかけられ尋問を受けます。
彼はフリップに対して「ホロコーストなんて本当はなかった」とまで言われ、さすがにカチン!と来た表情をします。初めて彼が「ユダヤ人」という人種で差別されたからでしょう。
つまり、この映画では今世界中で起きているあらゆるヘイト問題が描かれています。
黒人だから、女性だから、ユダヤ人だから…そういったヘイトが起こすのは「争い」しかありません。
劇中ロンも「戦わない方法だってあるんじゃないか」という中立の立場をとり、黒人から怒られるシーンもあります。
しかし、本当に大事なのはきっと争いではありません。憎しみは憎しみしか生まない。そんな当たり前の事実こそ、今の世の中には大事なのかもしれません。
「最後の映像は蛇足」だと?目を覚まそうよ!
映画のラストのラスト。2017年、アメリカ・バージニア州のシャーロッツヴィルで起きた実際の事件の映像が流れます。
これは白人至上主義者が、抗議する人たちの集団に車で突っ込んだという恐ろしい事件です。映画のラストは映像と共に、この事故で命を失った一人の女性の写真が使われています。
トランプ大統領は、この事件に関して「双方に責任がある」と語り、白人至上主義たちを擁護しているのでは?と批判が殺到。
つまり物語は一件落着!ではありません。この映画で描かれている問題は、今も続いているのです。
一部の感想を見ると「最後の映像が蛇足」「萎えた」という声もありますね。
この作品見て、よくそんなこと言えますね。平和ボケも大概にしろって感じですな。
肌が黒いというだけで、警察に車を停められ、最悪銃を突きつけられてしまうんですよ?そんな人生、考えられます?
そして、今アメリカでは、KKKから支持を受けている人物が大統領になっています。
劇中で黒人のロンが「そんな奴がアメリカの大統領になるわけない」と言われるような人物が、自分の国のトップになっている。
自分がもし黒人だったら…と思うと、恐怖でしかありません。
これはアメリカだから起きる事でしょうか?日本だって同じかもしれませんよ。関係ないと切り捨てるのは簡単ですが、少しだけでも今世界で起きている問題に目を向けてみてはいかがでしょうか。
「グリーンブック」と「ブラッククランズマン」の差
さて、この映画は2018年度のアカデミー賞作品賞に輝いた「グリーン・ブック」との比較が目立ちます。というのも、グリーンブックも黒人の人種差別がメインテーマ。
両者ともに人種差別問題を扱い、作品賞にノミネートされたのです。
しかし、アカデミー賞授賞式では、作品賞に「グリーンブック」が発表されると、スパイク・リーは無言で会場を後にした…というエピソードも報道されています。
これらは検索すると詳しい記事が出てくるので、そちらを是非参考にしてください。
「グリーンブック」も素晴らしい作品です。でも、それは人間ドラマとして素晴らしい作品だったなという印象です。
「グリーンブック」からは「ブラッククランズマン」ほどの人種差別に対する強いパワーは作品からは感じられませんし、「今、撮らねばならぬ」という強い執念も無いです。
しかし、こればかりは比較するのはナンセンスかと。常に脅かされてきた黒人からと、それなりに安全に生きてこれた白人から見る人種問題に大きな壁があるのは当然なことです。
トランプ大統領就任後、多くのアーティスト(特に黒人たち)はある種の怒りのパワーを己の作品に吹きこみ、素晴らしい作品を作り出しています。
彼らは本気で今の世界情勢に物申したい!!という強い思いがあるからです。
どちらが良い悪いではなく、それぞれのルーツの問題も深く絡み合っていることなので、簡単に判断していいものではありません。
是非「グリーンブック」を見た方は、「ブラッククランズマン」も見ておきましょう。
グリーンブックはハッピーエンドでしたが、アメリカは未だに人種問題で戦っている人がいます。
そのことを今一度、映画で表明した今作。今の時代だからこそ出来た傑作です。人種問題意識が薄い日本人にも是非一度見て頂きたい作品です。