【ビューティフルボーイ】のあらすじと感想/薬物依存の恐ろしさと家族の支え。依存は悪なのか?

「ビューティフルボーイ」評価★3.6点(5点満点)

「ビューティフルボーイ」が地元でやっと公開されたので見てきました。

薬物依存になってしまった息子と父親の軌跡を描いた作品です。

日本でも何かと話題になっている薬物問題。

果たして「ビューティフルボーイ」はどのような描き方をしているのか。あらすじ・感想をまとめていきます。

「ビューティフルボーイ」あらすじ

成績優秀・スポーツ万能・性格も真面目で優しい少年ニック。非の打ちどころがないほど完璧な彼だったが、実は裏ではドラッグを辞められずに悩んでいた。

そんな息子をドラッグから救おうと父親デヴィットはニックを更生施設に入れるが、彼は何度も脱走し、何度もドラッグを再発してしまう。

自慢の息子だと思っていたニックが、どんどんドラッグに陥っていくさまに苦悩するデヴィット。

 

それでもデヴィットが最後まで献身的にニックを支えたのは「すべてをこえて愛していた」から。

そんな父親と息子による、薬物依存からの再生を描いていく作品。

 

実はこの物語はフィクションではなく実話もの。

原作は父親と息子、それぞれの視点から書いた2冊の本です。

発売されるやいなやベストセラーになったそう。日本でも映画公開に合わせて、翻訳本が発売されました!

 

ちなみに息子のニック・シェフは薬物依存から抜け出し、今はなんと人気脚本家。NETFLIXの「13の理由」で脚本を務めています。凄すぎ!

 

映画のタイトルはジョンレノンの同名曲から。息子への愛を歌った曲です。

Beautiful Boy (Darling Boy) - John Lennon - YouTube

「ビューティフルボーイ」の監督・キャスト

■監督

フェリックス・ヴァン・フルーニンゲン

 

全然知らない人だなと思ったら、ベルギーの方みたいです。本作が初の英語映画らしいです。

ちなみに、制作会社は最近名作を作りだしまくっているプランB

今作もブラピがプロデューサーで入っています。

 

■キャスト

・デヴィッド・シェフ(父親)…スティーヴ・カレル

・ニック・シェフ(息子)…ティモシー・シャラメ

 

父親役はミニオンズでも有名なスティーブ・カルレ。彼の演技をしっかり見るのは実は初めてです。

薬物依存の息子という難しい役どころを演じたのは、ハリウッドの新星ティモシーくん。「君の名前で僕を呼んで」で一世を風靡した美少年です。

「ビューティフルボーイ」の感想まとめ

薬物こわすぎ!家族辛すぎ!

まず初めに薬物依存が恐ろしすぎる…!!!脳にダメージを与え、最悪の場合は神経を再生することもできなくなったり…。

ドラッグは体に悪い!くらいのイメージでしたけど、こんなにも人の体に悪影響を及ぼすとは知りませんでした。

 

今作のニックは、初めはハッパなどの手軽なものに手を出し、より強い感覚を求めて最終的には依存性が高いメスに手を出してしまいます。

メスは依存性が高く、いくら施設に入ろうが成功率はかなり低いそう。

 

映画でも1年半くらいはニックが薬物を辞めて、「おっ!一件落着か!」と思いきや…また、ドラッグに手を出して逆戻り…。この辺は見ていて本当痛々しい…。

自分を愛して待ってくれている人がいても、どうしてもドラッグに手を出してしまうのか…と絶望するシーンでした。

 

映画では一部しか描かれませんが、実際は11回も再発しているそうです。こんな絶望を11回も繰り返すって…しんどい…。

 

父親や母親があれだけ向き合ってもどうにもならない、救えないって本当苦しいですよ。

途中で何度かデヴィットも「勝手にしろ!」と諦めたりもするんですが…。

それでも過去のニックの笑顔や彼との思い出がフラッシュバックして、やっぱり捨てきれない。この葛藤が辛い…。

 

家族という愛と、その裏にある呪縛。その両方がしっかりと描かれていました。

 

宣伝では「家族の愛の物語」みたいなきれいな謳い文句がついていましたが、中身はそんな生ぬるい言葉では説明できないほどの絶望感にあふれていました。

勿論、愛情はあるんですけど、そんな簡単な言葉では片付けらないほどの何かがありました。

 

劇中の言葉にもあるように「世界中のどんな言葉を集めても、お前への愛情は表現できない」。

 

私は子どももいないので分かりませんが、親は子どもにこういう気持ちを抱くものなんでしょーか。私の親もそう思いながら育ててくれたのかな…と胸がグッと苦しくなりました。

薬物にハマるのは悪なのか?

そもそも、息子のニックは超がつくほどの優秀な子でした。

美少年で性格もよくて、なおかつ6つの大学に合格するほど頭が良くて、スポーツも万能。もう少女漫画の王子様やん…。

 

なので、父親も最初はなんでこの子が?と不思議がるんですね。

まだニックが中毒になる前「一緒にハッパ吸おうよ」と言われてビックリして「ほどほどにしろよ」と注意はするのですが…。

あっちではハッパをはじめ、薬物って身近な存在なのかあまりキツクは叱らないんですよね。

父親も「一通りは(ドラッグ)やったよ」と息子に語るシーンもありますし。

 

これって薬物だとぴんと来ないですが、タバコやアルコールだと分かりやすいですよね。ちょっと出来心でやってみたら、ふとしたことから依存から抜け出せなくなる…という。

 

そもそも、こういうものはだらしない人が依存してしまう…というわけではありません。どちらかというと、真面目で優しい人こそ依存してしまうのです。

 

誰かに弱音を吐けなかったり、何でも自分でも抱えてしまう人ですね。例えは変ですが、ブラック企業で心身を壊してしまうのもこのタイプですよね…。

ちなみに、依存症に関してはこの方の漫画が分かりやすいです。

依存症啓発漫画 第1話

 

真面目でちょっと内気な夫がどんどんアルコール中毒になっていく話です。厚生労働省の監修による漫画で、全て無料で公開しています。

アルコールだけでなく、ドラッグやギャンブルなどさまざまな「依存」について描いています。

要は誰だって、こういった依存症になることはあるよってことです。


ニックに関しても、親は小さい頃に離婚し、その後父親が再婚して腹違いの兄弟もいるという、ちょっと複雑な家庭なんですよね。

小さい兄弟ともすごく仲良くして一見「良いお兄ちゃん」なんですけど、裏ではこの家には自分の居場所がないなって寂しい思いを抱えていたのかなと思うと…切ない…。

 

そういう足りない「何か」を埋める為に、薬物に依存していたんだろうなぁと。

 

ちなみに、ドラッグに関しては欧州の一部では個人の使用に関しては刑罰化していないそうです。町山さんがこの映画をたまむすびで紹介した際に解説していました。

詳しくはこちらの記事をどうぞ。

miyearnzzlabo.com


ドラッグ使用者は警察に言えば、適切な治療を行え、社会復帰もしやすくなります。

そして、ドラッグの売人は使用者が通報すると捕まってしまうので、売りにくくなるのです。ドラッグの負の連鎖を根っこから断とうということです。


町山さんがこの映画を丁度あのピエール瀧の逮捕の際に紹介していたのが印象的でした。

ここぞとばかりに彼を叩き倒していたメディアに辟易としたのを覚えています。

ちなみに、この問題については評論家の荻上チキさんと、薬物依存症の専門医松本俊彦医師による「薬物報道ガイドラインを参考にしてください。

www.ask.or.jp

 

一部のメディアの行為が薬物依存者にどのような影響を与えているのか、是非上記のガイドラインから知っておきましょう。

 

ちなみに、映画でも正直ラストはハッピーエンド感は少ないです。

最終的に彼らは再生していきますが、邦画によくあるような「父さんありがとう!」みたいなキラキララストではないです。

ズンと心に重いものが残るラストでした…。

 

薬物に馴染みのない日本人だからこそ、薬物依存について知るべきではないでしょうか。

時系列が分かりにくい!!

題材は非常に興味深いものでしたが、評価をマイナスにした要因はこれです。

冒頭のシーンから1年前に遡り、何故ニックが薬物に手を出したのかを説明していくのですが時系列が非常に分かりにくい!!!

 

「ん?これは薬物に手を出す前のニック??」「ん?この施設は何?2つ目の施設?」など、何だか妙に分かりにくい編集がほどこされています。

なんとなくは分かるのですが、途中追いつけずにいました。

 

そもそもティモシー君が薬物依存に陥っていくときも、分かりやすい見た目の変化が特になくて。撮影中はかなり減量したそうですが元々細いので、あまり分からず…(笑)

 

余談ですが私は薬物やると見た目もボロボロになるという固定概念がありましたが、以下の記事を読んで納得。

news.merumo.ne.jp

 

薬物使用と見た目の変化はあまり因果関係がないとのこと。勿論、一部の人は顔にもそういった症状が出るそうですが。

 

確かにパッと顔を見て「薬物やっているな」って分かれば、今作の父親も早い段階で気付けたかもしれないですよね。

分からないからこそ、事態がどんどん深刻化してしまうという…。自分の無知さを恥じました。そりゃそんなに簡単にわかれば苦労しないですよね。

 

親と子の愛を究極の愛を描いた今作。薬物に限らず、誰だって時には弱くなって、何かに依存したくなることもある。

そんなときに手を差し伸べたり、あるいは差し伸べてもらえる人はいるのか。

思わずウンウンと考えてしまう作品でした。